薄膜太陽電池で効率20.1%、スマホから建物まで:蓄電・発電機器(2/2 ページ)
急速に変換効率を高めつつあるペロブスカイト薄膜太陽電池。カナダトロント大学の研究チームは変換効率20.1%の太陽電池セルを開発した。狙いは従来のシリコン太陽電池の「ブースター」として使うことだ。
低温で製造可能に
発表資料の中でTan氏は問題を端的に指摘している。「品質の高い電子輸送層を製造するためには、粉末材料を用い、500℃以上の高温でベークする(焼く)手法が最も優れている。この手法の欠点は柔軟性のあるプラスチックシート上や、製造済みのシリコン太陽電池セルの上で成膜することはできないこと。相手側が溶けてしまうからだ」。
そこでTan氏の率いる研究チームは、シリコン太陽電池セルの電極の上でも成膜が可能な手法を開発した。電子輸送層を作り上げるナノ粒子を溶液に溶かし込んで用いた。加熱は必要であるものの、常時150℃を下回る。多くのプラスティックフィルム上でも成膜できる温度だ。
これまでも低温プロセス向けの電子輸送層の研究は続いていた。二酸化チタンや酸化亜鉛、酸化スズ、四酸化亜鉛スズなどを用いた研究だ。今回は二酸化チタンの微粒子を用い、加えて表面のみを塩素原子でコーティングした(図3)*3)。
これによって、従来の材料と比較して2つの利点が得られた。1つはペロブスカイト層と電子輸送層の界面が強固に結合し、電子の抽出が効果的になったこと。もう1つは、せっかく取り出した電子が正孔(電子が不足している狭い領域を粒子として捉えた表現)と再結合して熱に変わってしまう現象を抑制できたことだ。
*3) 塩素原子で二酸化チタンをコーティングした場合の電子輸送層(Chlorine-capped TiO2 colloidal nanocrystal filmと呼ぶ)の効果を、あらかじめ計算材料科学の手法を用いて調べた後に、試作に入った。ペロブスカイト層の鉛原子同士をつなぎ合わせていたヨウ素原子を、塩素原子が置換し、さらに二酸化チタン結晶のチタン原子との間にこの塩素原子による架橋ができあがる。
図3 開発したペロブスカイト太陽電池セルの断面構造 光は下から入射する。下層から透明電極、電子輸送層(塩素でコーティングした二酸化チタン)、発電層、正孔輸送層(OMeTAD)、裏面電極。図右下の緑色の棒は2000分の1ミリメートルを示す 出典:米Science誌に発表された論文に基づいて本誌が作図
低温製造でも高性能
Tan氏のチームが開発した太陽電池セルは性能も高い。1つは冒頭で紹介した変換効率だ。低温プロセスとしては最も高い*4)。もう1つは安定性。
低温プロセスで作り出したこれまでの電子輸送層は、発電開始後、わずか数時間で性能が著しく低下していた。ところが、Tan氏のチームが作り上げたセルは、500時間発電し続けても初期値の90%以上の変換効率を保っていた*5)。
Tan氏は発表資料の中で、成果を次のようにまとめている。「今回開発した低温プロセスを用いると、下地の材料にダメージを与えることがない。ペロブスカイト太陽電池セルをシリコン太陽電池セルの上に直接コーティングすることができる。ハイブリッド・ペロブスカイト・シリコン太陽電池セルが30%以上の変換効率を実現できれば、太陽光発電の経済性がより高まる」。
ペロブスカイト太陽電池の用途も広がっていく。充電機能を備えたプラスチック製のスマートフォンカバーといった身近なものから、建物にエネルギーを供給する発電機能付き着色窓といった応用だ。
*4) 低温プロセスを採用した従来の記録は、変換効率19.9%だった(大面積セルでは14.5%)。
*5) 一般に暗所に保管した場合でも変換効率が低下する。試作品では500時間後の変換効率が初期値の97%を維持した。
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