CO2回収・貯留技術を実用化へ、2030年までに石炭火力発電所に適用:蓄電・発電機器(2/2 ページ)
地球温暖化対策としてCO2回収・貯留(CCS)技術の開発が大きな課題だ。石炭火力発電所が数多く稼働する日本では2030年までにCCSの実用化を目指す。北海道の沖合の地中にCO2を貯留する実証試験が進み、広島県や福岡県の石炭火力発電所ではCO2回収設備が2020年度までに運転を開始する。
日本の近海にCO2を貯留できる地増
地中でCO2を貯留できる条件を備えているのは「帯水層」と呼ばれる地層だ。帯水層には岩石の隙間が多くあるためCO2を貯留できる。さらに上部に水やガスを通さない緻密な構造の「不透水層」があれば、貯留したCO2が漏出することを防げる。苫小牧の沖合の海底には帯水層と不透水層が重なって堆積している。
長年にわたってCCSを研究している「地球環境産業技術研究機構(RITE)」の評価結果によると、日本の近海にはCO2の貯留に適した帯水層が広く分布している。火力発電所や製鉄所が数多く集まる東京湾・伊勢湾・大阪湾・北部九州の4地域の沿岸にも帯水層が分布していて、大量のCO2を貯留できる可能性が大きい(図5)。
政府は全国各地にCCS Readyの候補地を拡大するため、引き続き貯留に適した場所の調査を実施する。その一方で石炭火力発電所にCO2を分離・回収する設備を併設してCCSの実用化を推進する方針だ。
現時点で商用レベルのCO2分離・回収設備を導入することが決まっている石炭火力発電所は2カ所ある。1カ所は瀬戸内海に浮かぶ広島県の大崎上島(おおさきかみじま)で実施する「大崎クールジェンプロジェクト」である(図6)。中国電力と電源開発が国の支援を受けて2012年度から取り組んでいる。
このプロジェクトでは石炭からガスを発生させて高効率に発電できる「IGCC(石炭ガス化複合発電)」の実証試験を皮切りに、第2段階では発電に伴って排出するガスからCO2を分離・回収する(図7)。分離・回収設備の実証試験は2019年度に開始する予定だ。さらにCO2と同時に水素(H2)を回収して燃料電池で利用する。
もう1つのCO2分離・回収プロジェクトは、有明海に面した福岡県の大牟田市にある「三川(みかわ)発電所」で実施する。東芝グループが運営する石炭火力発電所で、CO2を分離・回収するパイロットプラントが2009年度から運転中だ(図8)。1日あたり10トンのCO2を回収できる。
三川発電所では新たに政府の実証事業で大規模なCO2分離・回収設備を建設する。発電能力が4万9000キロワットの石炭火力発電所から、1日に1000トン以上のCO2を排出している。そのうち50%を回収できる設備を建設する計画だ。2020年度に実証運転を開始する(図9)。
2カ所の実証試験を通じてCO2分離・回収設備の実用化を進めて、2030年までに商用の石炭火力発電所に導入できるCCS Readyの状態を目指す。政府は2050年までに国全体のCO2排出量を80%削減(2010年比)する長期目標を掲げている。大量のCO2を排出する石炭火力発電所は2050年の時点でも残る可能性が大きく、CO2分離・回収と貯蔵・利用の取り組みが欠かせない。
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