最長の寿命、大容量化できる有機物蓄電池:蓄電・発電機器(4/4 ページ)
米ハーバード大学の研究チームが再生可能エネルギーに由来する電力を蓄える用途に適する蓄電池を開発した。長寿命、大容量、低コストという3つの特徴を備える。有機物に電荷を蓄えるレドックスフロー電池で実現した。
そもそも水に溶けない
次は正極側に適した分子の探索だ。フェロセンは理想的な分子だが、問題があった。水に全く溶けないのだ。
そこで、ビオロゲンの安定性を高めるために用いた手法を応用、ビオロゲンと全く同じBTMAP官能基を2つフェロセンに付加した(図3)。溶解度は同じく2M/lと高い。
米MITでGene and Tracy Sykes Professor of Materials and Energy Technologiesを務めるMichael Aziz氏は発表資料の中で次のように語っている。「水溶性フェロセンはレドックスフロー電池に用いる分子としては全く新しいカテゴリーになる」。
BTMAPには他の利点もあった。図A-1に示した陰イオン交換膜は、ビオロゲン誘導体とフェロセン誘導体を分離し、塩化物イオン(Cl−)だけを通さなければならない。左右の誘導体が混合すると、性能が低下するからだ。
BTMAPを追加することで、電極と誘導体の電荷のやり取りにはあまり悪影響を与えず、陰イオン交換膜を誘導体が通過する頻度(クロスオーバー速度)を引き下げることに成功した。
図3 フェロセン分子(左)と官能基を付加した誘導体 ビオロゲンと同じBTMAPを付加した。電子を放出すると2つのベンゼン環ニはさまれた鉄がFeIIIに変化、受け取ると再びFeIIに戻る 出典:米ハーバード大学
有機物採用レドックスフロー電池の実用化へ
風力発電や太陽光発電に由来する電力を大規模に蓄電し、ある程度の時間維持し、必要に応じて外部に供給するには大型で寿命が長く、低コストな電池が必要だ。重量やエネルギー密度よりもこれらの性質が優先される。
ハーバード大学の研究チームは、同大学のOTD(Office of Technology Development)の支援を受けて、複数の企業と産業化に向けて協業中だ。今回の研究を応用した実用電池に期待がかかる。
【修正履歴】 記事の掲載当初、本文p.4の第5段落で「陰イオン交換膜を塩化物イオンが通過する頻度」としておりましたが、これは「陰イオン交換膜を誘導体が通過する頻度」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。上記記事はすでに訂正済みです(2017年4月4日)。
関連記事
- 電力安定化の決め手か、米国最大規模のレドックスフロー型蓄電システムを実証
住友電気工業グループは、米国で大規模蓄電池システム技術として注目を集めるレドックスフロー電池の実証を行う。 - 再エネ変動対策の決め手か、北海道で6万kWhの大規模蓄電池の実証を開始
北海道電力と住友電気工業が共同で進めてきた南早来変電所における大型蓄電システムの設置工事が完了し、2015年12月から実証試験を開始した。 - 蓄電できる燃料電池、リチウムよりも大容量・安価
イスラエルの企業が「鉄」を利用した蓄電池を開発した。「米テスラのリチウムイオン蓄電池Powerpackよりも安い」と主張する。同社が採用する技術はレドックスフロー。どのような蓄電池なのか、コストや技術の特徴を紹介する。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.