高性能リチウム電池、産廃シリコンを利用:蓄電・発電機器(3/3 ページ)
リチウムイオン蓄電池の性能を高める手法として、実用化が進む「シリコン負極」。容量を従来の3倍程度に高めることが可能だ。しかし、負極の構造が複雑になり、原料コスト、製造コストがかさむ。東北大学と大阪大学の共同研究チームは、半導体産業の産業廃棄物であるシリコン切粉を原料として用い、製造コストを引き下げる技術を開発した。試作した蓄電池の性能は高い。
原料の半分が無駄になるシリコンウエハー製造
研究チームはシリコン負極の原料として、産業廃棄物であるシリコン切粉を用いた。なぜだろうか。理由は2つある。
シリコンウエハーを製造する際、45〜55%のシリコンが切りくずとして無駄になる(図A-1)。ワイヤーソーと呼ばれる「糸ノコ」のような装置でシリコンインゴットを物理的に切断するため、大量の切りくず(切粉)が生じるのだ。
2014年時点で金属シリコン(図A-1の第2段階)の全世界における製造量は176万6400トン。このうち、約10%がシリコンウエハー製造に用いられる純度99.99%(4N)のシリコンとなる(同第4段階)。半導体産業や太陽電池セルに向く材料だ。これが、年間推定8万8320トンにも及ぶシリコン切粉が発生する理由である。
研究チームによればリチウムイオン蓄電池用の負極として2015年時点で12万5000トンの黒鉛が使われているという。シリコン負極を採用した場合も、材料として黒鉛と組み合わせる*A-1)。従って、シリコンの需要は1万5000〜5万8000トンになると計算した。約9万トンのシリコン切粉があれば、世界需要を十分にまかなうことができる*A-2)。
シリコン切粉を用いた理由はもう1つある。出発原料の珪石や珪砂から、シリコンウエハーに至るまで、大量の電力が使われているからだ。例えば、ケイ素原子と酸素原子が強く結び付いている珪石や珪砂から酸素原子を取り除いて還元する際、1キログラム当たり11〜15キロワット時もの電力を投入している。最終段階で単結晶をシリコン融液から引き上げる際には超伝導技術も利用している。
シリコン切粉はエネルギーのかたまりなのだ*A-3)。産業廃棄物にとどめておくにはあまりにももったいない。
*A-1) シリコンは黒鉛と比較して導電性が低い。電気を通す電極としての性能を高めるため、導電性物質(例えば炭素系材料)と混合して用いる。
*A-2)研究チームはリンがドープされたn型シリコンの切粉を用いた。リンによる悪影響はなかったという。
*A-3) 製造時にこれほどのエネルギーを投入しても、太陽電池に加工した場合、2年以内に全て発電電力として回収できる(関連記事)。
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