資源に影響を与えない地熱発電所、日本一の温泉県で動き出す:エネルギー列島2016年版(44)大分(3/3 ページ)
地熱発電で全国の先頭を走る大分県では、さまざまな方式で電力を作る。低温の蒸気と熱水を利用するバイナリー方式のほか、温泉水を使わずに地中の熱を吸収して発電する実証設備が世界で初めて運転に成功した。森林地帯と臨海工業地帯では大規模なバイオマス発電所が電力の供給を開始した。
電力の自給率は全国トップクラス
全国随一の温泉資源を誇る大分県では新しい地熱発電所の開発が進む一方で、太陽光や小水力発電、バイオマス発電の導入量も伸びてきた。固定価格買取制度の認定を受けた発電設備がすべて稼働すると、県内の全世帯数の2倍を超える電力を供給できる(図10)。すでに運転を開始した発電設備だけでも50%以上の世帯をカバーできる状況だ。
特に最近はバイオマス発電の拡大が目ざましい。2016年に入って大規模な木質バイオマス発電所が大分県内で相次いで運転を開始した。1カ所は南部の豊後大野市(ぶんごおおのし)で2016年8月に稼働した「豊後大野発電所」である(図11)。
発電能力は1万8000kWで、年間に330日の稼働を予定している。年間の発電量は1億2000万kWhを見込んでいて、一般家庭の3万3000世帯分の電力を供給できる。豊後大野市の総世帯数(1万6400世帯)の2倍に匹敵する規模だ。燃料は周辺地域の森林で発生する間伐材などを利用する。
年間に消費する木質チップは21万トンにのぼる。発電所を運営するエフオングループは大分県の西部に広がる日田市(ひたし)でも木質バイオマス発電所を運転中だ。日田市の周辺地域から燃料の木材を集めて、県の北部と南部に分かれた2つのバイオマス発電所で共同の備蓄体制をとっている(図12)。木質バイオマス発電で課題になる燃料の安定確保を図るためだ。
大規模な木質バイオマス発電所は臨海工業地帯でも動き出した。南部の佐伯市(さいきし)にある太平洋セメントの工場の構内では、発電能力5万kWの木質バイオマス発電所が2016年11月に運転を開始した(図13)。
この木質バイオマス発電所では港に隣接する立地を生かして、東南アジアから輸入するパームヤシ殻(PKS)を燃料に利用する。PKSはヤシの実からパームオイルを抽出した後に出る廃棄物で、実の中に入っている大きな種の殻の部分を乾燥させて砕いたものだ(図14)。東南アジアでは大量のPKSが発生して処分が課題になっている。バイオマス発電に利用することで廃棄物の処理とCO2(二酸化炭素)の削減を両立できる。
年間の発電量は3億1500万kWhを想定している。8万7500世帯分に相当する電力で、佐伯市の総世帯数(3万3500世帯)の2.6倍に匹敵する。バイオマス発電は再生可能エネルギーの中でも天候の影響を最も受けにくい。長期にわたって燃料を確保できれば、安定した電力源として有効だ。海外から輸入する木質の燃料も組み合わせながら、エネルギーを地産地消する手段として全国に広がり始めた。
2015年版(44)大分:「地熱発電でトップを独走、太陽光やバイオマスを加えて自給率5割へ」
2014年版(44)大分:「おんせん県は地熱発電だけじゃない、山と海からバイオマスと太陽光」
2013年版(44)大分:「火山地帯で増え続ける地熱発電、別府湾岸には巨大メガソーラー群」
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