バイオガス事業を拡大する北海道・鹿追町、水素を作りマンゴーも栽培:自然エネルギー(2/2 ページ)
牛の飼育数が2万頭を超える北海道の鹿追町ではバイオガス事業が活発だ。大量の牛ふんから精製したバイオガスで日本初の水素ステーションが稼働、燃料電池で走る自動車やフォークリフトに供給を開始した。バイオガスの余剰熱を生かしてマンゴーやチョウザメの育成にも取り組んでいる。
バイオガスプラントを町内全域に整備
鹿追町で実施する実証事業を通じて、寒冷地における低炭素社会の実現方法を官民一体で検証していく。地域に豊富にある資源を生かして再生可能エネルギー由来の水素を作り、地産地消型の水素社会を実現する(図5)。CO2フリーの水素を使って燃料電池で電力と熱を供給することにより、地域全体のCO2排出量を削減しながら、観光事業や酪農業の発展につなげる狙いだ。
新たな産業としてバイオガスプラントから発生する余剰熱を利用した農業や漁業にも取り組む。鹿追町のバイオガスプラントの周囲にはマンゴーを栽培するビニールハウスやチョウザメを飼育する研究棟がある。バイオガス発電の余剰熱を使って南国の果物を寒冷地の北海道で栽培できる(図6)。チョウザメからは高級食材のキャビアが産まれる。
鹿追町ではバイオガス事業を発展させるために、牛ふんからバイオガスを精製するプラントを5つの地区に整備する構想を進めている。地区ごとに牛ふんを収集して、バイオガス事業による新しい酪農業を町内全域に広げる計画だ(図7)。
2016年4月には2番目の「瓜幕(うりまく)バイオガスプラント」が稼働した。1日に3000頭分の牛ふんを処理できる国内最大規模のバイオガスプラントで、既設のバイオガスプラントと比べて2倍の処理能力がある。赤で統一した設備全体が周囲の緑に鮮やかに映える(図8)。
精製したバイオガスは発電に利用して、施設内の電力供給と売電収入の増加につなげる。1台あたりの発電能力が250kW(キロワット)のバイオガス発電機4台を使って、合計で1000kWの電力を供給できる。バイオガスを精製した後に残る液から肥料を作って、町内の農家や酪農家に提供している。
町の大きな悩みだった牛ふんから生じる悪臭が減り、雄大な自然と酪農を生かした観光業にもプラスの効果をもたらす。バイオガス事業を通じて新たな雇用が生まれ、地域の活性化を後押しする。今後はCO2フリーの水素を供給する事業が拡大していく。鹿追町の取り組みは日本の酪農地域を低炭素型に転換して発展させる先進的なモデルになる。
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