全固体リチウム電池、発明者が狙う次の一手:蓄電・発電機器(3/3 ページ)
再生可能エネルギーの大規模利用や電気自動車の普及に役立つリチウムイオン蓄電池。同電池の発明者がテキサス大学の研究チームを率いて、これまでにない「めっき動作」で電力を蓄える全固体リチウムイオン蓄電池を開発した。蓄電池に求められる全ての性能を改善できる。
安価な元素を利用
どのような組成と性質なのだろうか。まずはリチウム以外、地球上にごくありふれた物質だけを用いて作り上げた。バリウム(Ba)、酸素(O)、塩素(Cl)を利用して、Li2.99Ba0.005O1+xCl1−2xという組成に決定した。量産時の材料コストが下がる。
もう1つ重要なことは、研究チームがリチウム同様、ナトリウム(Na)を利用できることを発見したことだ*4)。先ほどの固体ガラス電解質の組成のうち、リチウムの部分をナトリウムに置き換えるだけでよい(Li2.99をNa2.99に変える)。今回の成果を全固体ナトリウムイオン蓄電池へと展開できる。
開発した固体ガラス電解質には好ましい性質が2つある。1つは金属リチウムなどとスムーズに接触すること。いわゆる「ぬれ性」が高い。金属リチウムと固体ガラス電解質の間に輸送を助ける物質を配置する必要がなく、構造も単純になる。もう1つはリチウムイオン、ナトリウムイオンを通しやすいこと。抵抗が少なくなるため、よりたやすく充放電を実行できる*5)。
放電時にはリチウムイオンが固体ガラス電解質を経由して負極から正極へ移動。正極材を「めっき」していく動作を起こす*6)。充電時には逆に正極からめっきがなくなっていく。
*4) ナトリウムと有機金属化合物であるフェロセンを用いて蓄電池セルを試作した。
*5) 25℃でのカチオン伝導度は1センチメートル当たり10−2ジーメンスと極めて高い。移動エンタルピー(ΔHm)は0.06eVと低い。
*6) 測定したセル容量が正極の硫黄の容量(硫黄の還元による)を超えていたため、めっき動作が起こっていることを予測、観察の結果実証した。
容易に製造でき、動作する
固体ガラス電解質は製造も容易だ。エタノールに原料を溶かし込んで加熱していき、ゆっくりと冷却してガラス転移点以下に下げる。得られた膜の厚さは0.06mmだった。
セルを組み立てた後、室温下で約10日間置いてエイジングした。するとガラス電解質内のLi2OとOLi−が電気双極子を形成した。この双極子は充放電中に内部電場と並行に方向がそろう性質がある。
Goodenough氏によれば、リチウムイオンが移動しやすいことと同時に、このような電気双極子を形成できることが今回の固体ガラス電解質の大きな特徴なのだという。
電気双極子によって、固体ガラス電解質の負極側と正極側に、電気二重層キャパシタと回路上、等価な部分が形成される。負極側の電解質が正に、正極側が負に帯電するのだ。この電気二重層キャパシタが蓄電池の性能向上に役立つ。
発表論文には試作品の放電曲線やサイクルごとのセル電圧の他、充放電時に内部がどのように変化したのかを確かめた電子顕微鏡撮影像が示されている。
もう少し分かりやすい結果もある。電圧や実際の動作だ。1セル当たりの出力電圧は約3ボルトをわずかに超え(図4)、LEDを点灯し続けることもできた。
今後は最適化を進める
Goodenough氏によれば、今回の試作セルには蓄電池としての性能を高めるための最適化が施されていない。動作することを検証した段階であり、性能を追求してはいない。
今後は固体ガラス電解質の厚さ(薄くするほどセルとしてのエネルギー密度が上がる)や負極と電解質の界面を通るイオンの移動速度(充放電速度を改善できる)の最適化を進めるとした。
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