温暖化対策にCO2フリー水素、2030年代のエネルギー源へ国の拡大戦略:自然エネルギー(2/2 ページ)
政府は化石燃料に依存しないエネルギーの安定確保と温暖化対策の両面から、CO2排出量を削減できる水素エネルギーを飛躍的に拡大させる。再生可能エネルギーの電力から水素を製造するほか、海外の油田などで発生するガスから水素を製造して輸入する。製造コストの低減が最大の課題だ。
製造コストを100円/Nm3以下に
これから日本でも再生可能エネルギーの電力が拡大することを考えれば、CO2フリー水素を製造する有力な方法になることは間違いない。当面の課題は製造コストを低減させることだ。政府の目標では1時間あたり1Nm3(ノルマルリューベ)の水素を製造できる水電解装置のコストを26万円以下に抑える。
ただし太陽光発電や風力発電の余剰電力を使って水素を製造する場合には、天候によって発電量が低下した時に水電解装置を稼働できなくなる。装置の設備利用率によって水素の製造コストが大きく変動してしまう(図5)。
現在のところ燃料電池自動車に供給する水素の販売価格は1Nm3あたり100円程度であることから、CO2フリー水素の製造コストも100円/Nm3以下に抑えることが当面の目標になる。そのためには水電解装置の設備利用率を30%以上に高める必要がある。再生可能エネルギーの余剰電力を安定して確保しなくてはならない。
海外でCO2フリー水素を製造する方法も将来に向けて有望だ。海外には化石燃料に付随して発生する水素ガスのほか、再生可能エネルギーの電力でも太陽光や風力に加えて天候の影響を受けにくい水力や地熱が豊富にある(図6)。大量の水素を低コストで輸入する体制を整備できれば、CO2フリー水素の調達量を一挙に拡大できる
すでに海外から水素を輸入する技術の開発は進んでいる。天然ガスと同様に水素を液化して、大型タンカーで日本まで輸送する方法だ。水素を効率的に液化する方法の1つに「有機ハイドライド」がある。気体の水素ガスをトルエンに吸収してMCH(メチルシクロヘキサン)と呼ぶ液体に変換すると、常温・常圧の状態で輸送できる。日本国内でMCHから水素を取り出して利用する(図7)。
図7 水素サプライチェーンの全体像(画像をクリックすると拡大)。PEM:量子交換膜、EOR:石油増進回収、CCS:CO2回収・貯留、MCH:メチルシクロヘキサン、FCV:燃料電池自動車。出典:資源エネルギー庁
プラントメーカーの千代田化工建設が有機ハイドライドによる液体水素の製造・貯蔵の実証プロジェクトに取り組んでいて、2020年代の早期に実用化できる可能性が大きい。それに加えて水素を製造する時に発生するCO2を回収・貯蔵・利用できれば、CO2フリーの度合いが高まる。
CO2フリー水素は2020年代に各種の取り組みが広がり、2030年代には製造・輸送・貯蔵・利用のすべてで実用化が進んでいく見通しだ。固定価格買取制度の対象になっている再生可能エネルギーの発電設備も2030年代には買取期間の終了時期を迎え始める。2030年代の日本のエネルギー源としてCO2フリー水素の役割は高まっていく。
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