石炭火力発電に国の方針が定まらず、原子力と合わせて見直し急務:法制度・規制(2/2 ページ)
環境省が石炭火力発電所の新設に難色を示し続けている。国のCO2排出量の削減に影響を及ぼすからだ。しかし最終的な判断を担う経済産業省は容認する姿勢で、事業者が建設計画を変更する可能性は小さい。世界の主要国が石炭火力発電の縮小に向かう中、日本政府の方針は中途半端なままである。
石炭火力のCO2排出量は圧倒的に多い
石炭火力のCO2排出量はLNG火力の2倍以上になる。中国電力とJFEスチールが計画中の石炭火力発電所では最先端のUSC(超々臨界圧)と呼ぶ発電方式を採用することが決まっている。それでも従来型のLNG火力の2倍のCO2を排出する(図5)。最新型のLNG火力と比べると2.5倍も多い。環境省が石炭火力発電所の新設・更新に反対するのは当然だろう。
環境省は経済産業省と共同で、最新鋭の火力発電技術をまとめたBAT(Best Available Technology)を定期的に更新して発表している。最新のBATでは建設中・開発中の石炭火力にUSCを推奨して発電事業者に採用を促している(図6)。それに合致した計画に難色を示すのであれば、BATを策定する意味がなくなる。BATのあり方も見直しが必要だ。
国内の石炭火力とLNG火力の運転状況を見ると、石炭火力のほうが新しい設備が多い。2030年の時点でも運転開始から40年を超える石炭火力は28%に過ぎない(図7)。一方のLNG火力は46%が運転開始から40年を超えるため、これから設備を更新するケースが増えていく。
既存の石炭火力発電所の運転を続けながら新規の開発を増やしてしまうと、発電効率の低い従来型の設備と合わせて大量のCO2を排出することになる。しかも石炭火力の開発は大規模なものに限らない。発電能力が11万2500kW未満の火力発電所を建設する場合には国の環境影響評価の手続きをとる必要がなく、自治体によって条例で環境影響評価を義務づけている場合があるだけだ。
環境省の検討会がまとめただけでも、2016年に運転を開始したケースを含めて全国20カ所で小規模な石炭火力発電所の開発が進んでいる(図8)。その中にはバイオマスを燃料に加えて混焼する発電設備もあるが、バイオマスの比率が少なければCO2排出量はLNG火力よりも明らかに多くなる。
石炭火力に対する国の明確な方針がないまま、総量を規制することもなく、個別の開発計画が全国各地で進んでいく。さまざまな分野でCO2排出量の削減に取り組んでも、火力発電で大量のCO2を排出し続けていては2030年の目標達成はむずかしい。ましてや2050年の長期目標は困難だ。
発電事業者は運転開始から40年を目安に事業計画を策定して発電所を建設する。今すぐに国の統一方針を示さなければ、2050年代はおろか、それ以降も大量のCO2を排出する石炭火力発電所が数多く稼働することになる。経済産業省と環境省は共同で新たな方針と対策をまとめて即座に実行する必要に迫られている。
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