「水素先進都市」を臨海工業地帯に、風力発電と副生水素を生かす:自然エネルギー(2/2 ページ)
太平洋岸に数多くの風力発電所が集まる茨城県・神栖市は「安全で持続可能なエコ・シティ」を目指して水素エネルギーの導入に力を入れる。風力発電の電力で作る水素に加えて、臨海工業地帯の工場で発生する副生水素を活用する方針だ。国の戦略に合わせて「水素先進都市かみす」を目指す。
都市部にも水素エネルギーを拡大
化学品などを製造する工場では副産物として水素が発生する。これまで副生水素は石油の精製などに使われることが多かったが、今後はCO2排出量の少ないエネルギー源として需要の拡大が見込める。神栖市では臨海工業地帯に展開するコンビナートに水素ステーションを設置して、工場で利用する燃料電池自動車や燃料電池フォークリフトに水素を供給するモデルを想定している(図5)。
神栖市は工業が盛んな茨城県内でも日立市と並ぶ生産規模を誇り、製造品の出荷額は年間に1兆円を超える(図6)。それに合わせて輸送に伴うCO2の排出量も多くなる。茨城県が2016年3月に策定した「いばらき水素戦略」では、2020年までに県内6カ所に水素ステーションを展開する計画で、そのうちの1カ所は神栖市内を予定している。
風力発電の電力と工場の副生水素を組み合わせて水素の供給能力を拡大する一方、製造した水素を市内で地産地消するモデルの検討も進めていく(図7)。都市部では大量の電力と熱を消費するホテルを中心に、オフィスビルを含めて燃料電池によるコージェネレーション(熱電併給)システムの活用を推進する。
もう1つのモデルは交通手段を対象に、都心や空港などと神栖市を結ぶ高速バスに燃料電池タイプの導入を検討するほか、市の公用車に燃料電池自動車を採用していく。国内では2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて燃料電池バスや燃料電池自動車の導入台数が増える見込みで、その動向を見ながら神栖市内のバス事業者に採用を働きかける方針だ。
国が2016年3月に策定した「水素・燃料電池戦略ロードマップ改訂版」では、バスやフォークリフトを含めて燃料電池自動車の普及台数を2020年までに4万台に拡大する目標を掲げた(図8)。神栖市では10台の燃料電池自動車の導入を皮切りに、国のロードマップに合わせて2030年以降の長期をにらんで家庭用の燃料電池(エネファーム)も普及させていく。
策定した戦略をもとに4種類のモデルを展開できれば、茨城県内はもとより全国の自治体に先行して「水素先進都市かみす」を実現することは十分に可能だ。市内に鉄道がない弱点を再生可能エネルギーと水素エネルギーで克服する。
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