バイオマス生産量1.8倍を実現、ブラジルで得た3つの技術:自然エネルギー
日本製紙などは、植林木の単位面積当たりのバイオマス生産量を1.8倍以上に増やすことができる精密林業技術を開発した。ユーカリチップ原材料費を44%削減することが期待できるという。
ユーカリチップ原材料費の44%削減
日本製紙と東京農工大学、千葉大学は2017年6月、植林木の単位面積当たりのバイオマス生産量を1.8倍以上に増やすことができる精密林業技術を開発したと発表した。
3者は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プロジェクトで、2013年12月から2017年2月まで日本製紙がブラジル北部に持つユーカリ植林地でバイオマスの収量向上を目的に委託研究を進めてきた。そこで得たDNAマーカー育成技術と2つのセンシング技術の開発を活用することで、バイオマス生産量を増やすことに成功した。
開発した技術の1つ目は林業用土壌センシング技術である。植林地圃場(ほじょう)において、栄養成分などの土壌情報を効率的で迅速に収集できるトラクター搭載型土壌センシング装置を開発。これにより土壌の迅速な評価が可能となり、植林木の成長に適した土地が選択できる。現行と比較して、1.3倍のバイオマス生産量の確保が可能とする。
2つ目のDNAマーカー育成は、植林木が持つゲノム(DNAの塩基配列の違い)を目印に、成長性や木質特性などの有用形質を間接的に選抜する技術だ。この技術により、推定バイオマス生産量が現行の1.4倍以上となる優良木の選抜に成功している。
これらの技術を組み合わせると、単位面積当たりのバイオマス生産量が(1.3×1.4)1.8倍に増やすことが可能で、ユーカリチップ原材料費の44%削減が期待できるという。またドローンや3Dレーザースキャナーを活用し、広大な植林地でバイオマス量を高精度に評価するリモートセンシング技術も開発。より精密で高効率な測定を可能にした。
日本製紙は今回の成果を、海外植林地における木質バイオマスの生産に活用するとともに、木質バイオマスを主原料とする製造業の発展につながる展開を検討していく。
NEDOプロジェクトの事業名は「バイオ燃料製造の有用要素技術開発事業/ゲノム育種及び高効率林業によるバイオマス増産に関する研究開発」(2013〜2017年度)で、事業費は2億6300万円となっている。なお土壌センシング装置は東京農工大学、DNAマーカー育種技術を日本製紙、リモートセンシング技術を千葉大学が開発した。
関連記事
- 「竹はバイオマス発電に不向き」を覆す、日立が燃料化技術を開発
日本国内に豊富に存在するものの、ボイラーで燃焼させると炉内に「クリンカ」という溶岩を生成してしまうなどの特性から、バイオマス発電の燃料には不向きとされている竹。日立はこうした竹の性質を、一般的なバイオマス燃料と同等の品質に改質する技術の開発に成功した。 - “竹”活用のバイオマス熱電、実用化への新たな一歩
関西電力はバンブーエナジーが熊本県玉名郡南関町で行う、クリンカが発生することから燃料として敬遠されてきた「竹」を活用したバイオマス熱電併給事業に出資参画すると発表した。 - バイオマス発電がリアス式の海岸へ、太陽光や潮流も地域の電力源に
宮城県では震災の影響でバイオマスの利用量が一時的に減ったが、再び新しいプロジェクトで盛り返してきた。森林資源や生ごみを使って電力を作りながら、農業や漁業と連携した循環型のシステムを構築する。広大な空き地にはメガソーラーが立ち上がり、海では潮流発電の実証にも取り組む。 - 地域密着型のバイオマス発電が拡大、太陽光の買取価格は下がり続ける
2016年は再生可能エネルギーの流れが大きく変わり始める。これまで急速に伸びてきた太陽光発電は買取価格の低下や出力制御の対象拡大によって開発計画が減少する見通しだ。地域の資源を活用したバイオマス発電が有利な条件をもとに拡大する一方で、風力・中小水力・地熱発電には課題が残る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.