中国・モンゴル・ロシア間で電力を輸出入、日本に必要な制度改革:日本とアジアをつなぐ国際送電網(3)(4/4 ページ)
欧州に続いて北東アジアでも国際間の電力取引が始まっている。冬に需要が増えるモンゴルに向けて中国やロシアが電力を輸出する一方、中国の東北部ではロシアの水力発電所から電力を輸入してCO2削減にも生かす。日本まで国際送電網を広げるためには、制度面の改革が欠かせない。
北東アジアに安価な自然エネルギーが広がる
ようやく日本政府も卸市場を活性化するための対策に着手した。電力会社が自社で発電した電力のうち、一定量を卸市場に供出する「グロスビディング」が徐々に増えてきた。さらに連系線の利用ルールの改善や送電網の増強を迅速に進めて、電力市場の構造改革を急がなくてはならない。
従来の日本の電力市場は国内だけを想定していたことから、国際的な取引を可能にする法制度の整備も必要になってくる。電気事業法など国内法の検討とともに、関係する各国との間で国際連系に伴う合意を締結することが考えられる。
既に電力の輸出入が活発に行われている海外では、2国間あるいは多国間で国際連系に関する合意を結ぶ事例が多い(図9)。国際連系線を含む広域の運用ルールを各国間で共通化する取り決めや、市場で紛争が発生した場合の解決手段などを定めている。電力の輸出入に取り組みやすい環境を整備するうえで、こうした国際間の合意は有効に機能する。
北東アジアでは中国とロシアが2010年に、国際連系線の開発に関して政府機関同士で協力することに合意している。国ごとに法制度の違いがあっても、国際的な合意を締結して電力の輸出入を開始することができる。
これから安価な自然エネルギーの電力が北東アジアの各国で増えていく。世界全体で脱炭素へ向かう電力市場を想定すれば、日本が国際送電網の構築に取り組むメリットは極めて大きいと言える。
連載第1回:電力を輸出入する時代へ、世界最大市場の北東アジアに
連載第2回:自然エネルギーへ移行する欧州、多国間で電力の取引量が拡大
筆者プロフィール
自然エネルギー財団
自然エネルギーを基盤とする社会の構築に向けて、政策・制度・金融・ビジネスモデルの研究や提言に取り組む公益財団法人。日本を含むアジア各国で自然エネルギーによる電力を最大限に活用できることを目的に、2016年7月に「アジア国際送電網研究会」を発足して事務局を務める。同研究会は電力系統やエネルギー政策の研究者、自然エネルギーの専門家で構成。世界の国際送電網を調査して、アジアにおける国際送電網の可能性について提言する。2017年4月に中間報告書をまとめた(自然エネルギー財団のWebサイトからダウンロードできる)。
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