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「成膜のコストを10分の1に」 GaAs太陽電池の普及へ、低コストな製造法を開発太陽光(2/2 ページ)

産業技術総合研究所 太陽光発電研究センターなどは、ガリウムヒ素(GaAs)太陽電池を低コストで高いスループットで製造できるハイドライド気相成長装置を開発したと発表した。

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NRELが作製したものと同等の効率20.3%

 HVPE装置はH2キャリアで原料ガスが輸送されるため、H2キャリアと原料の混合ガスが基板部に到達するまでに1〜2分かかる。ガス種の切り替えだけでは、膜の種類を瞬時に切り替えできず、多層構造を安定して高速成膜するには構造的な工夫が必要だ。

 今回連続して瞬時に膜の種類を切り替えることができるよう、GaAsを成膜するための成膜室A、InGaPを成膜するための成膜室B、AsH3、PH3雰囲気中で熱クリーニングを行うための待機室Cの3室マルチチャンバー方式を採用。ガスの広がりなどによって各室間で原料ガスが相互に汚染しあって膜の品質が劣化することを防ぐため、原料ガスがノズルから基板に到達するまでに広がらないようにノズル形状を改良している。マルチチャンバー化によって、あらかじめ成膜用のガス種の異なる成膜室を用意し、成膜室を適切なタイミングで切り替えて、明確な界面を有する多層構造の成膜を実現したという。


HVPE装置の成長シーケンスの概要 (クリックで拡大) 出典:産総研

 開発したHVPE装置を用いて成膜したGaAs太陽電池の特性を調べたところ、短絡電流密度26.4mA/cm2、開放電圧0.93V、曲線因子83.0%、発電効率20.3%が得られた。NRELの縦型炉を用いて作製したGaAs太陽電池と同等の効率(20.6%)である。

4インチ以上への大口径化も可能へ

 水平置き縦型炉は一般的な縦型炉と比較して、ガス流が反応炉の設計や原料ガスの比重に大きく影響を受けるため、原料ガスを均一に基板に供給することが難しい。基板の大型化、大口径化に資する高い均一性を維持することが重要となる。

 3者は均一性を高めるための技術として、原料ガスが均一に基板に供給されるよう原料ノズルを改良し、基板回転機構を導入した。この装置を用いて2インチGaAs基板上に作製された5μm厚のGaAs薄膜の膜厚分布を調べた結果、従来技術の面内均一性は30.1%だったが、装置改良で2.5%向上。均一性の良いGaAs太陽電池を製造するのに十分な性能を実現しことで、産業用に使用されている4インチ以上への大口径化が可能とする。


基板回転で成膜した2インチウエハー上の5μm厚GaAs膜の膜厚分布 (クリックで拡大) 出典:産総研

 これらの技術は、高効率なGaAs太陽電池を高速成膜で均一性良く製造する水平置き縦型HVPE装置の商用機への展開が可能で、製造コストの大幅な低減が期待できる。産総研の担当者は、スマートジャパン編集部の取材に対して「従来のMOVPE装置と比較して、成膜に必要なコストを約10分の1にできると試算している」と語る。

 今後は生産性向上のため、1時間当たり100μm以上に高速化させた成膜速度で4インチ以上に大口径基板上に均一性良く太陽電池を成膜する技術に展開。また産総研が保有するスマートスタック*)技術による接合を利用し、HVPE装置で製造したGaAs太陽電池とSi太陽電池を組み合わせた、低コストで高効率な多接合太陽電池の実現を目指すという。

*)スマートスタック:複数の太陽電池セルの接合界面にパラジウム(Pd)ナノ粒子を配列させ、電気的・光学的にほぼ損失なく接合する技術。接合界面にPdナノ粒子が介在する同技術は、表面は必ずしも原子的に平たんである必要がなくなり、III-V族化合物同士だけでなく、III-V族/Si、III-V族/CIGSの接合が可能になることが特長という。

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