化学製品をバイオマスで実現、新しい資源化プロセスを開発:自然エネルギー
温室効果ガスの削減に向けて、燃料や化学品原料に対するバイオマス資源の活用に注目が集まっている。日本触媒と神戸大学は、こうしたバイオマス資源を化学製品に必要な原料へと変換する新しい資源化プロセスの開発に成功。従来手法よりバイオマス全体の高い利用効率を実現できるという。
日本触媒(大阪市)は、神戸大学大学院工学研究科サスティナブルケミストリー寄附講座と共同で、再生可能資源であるバイオマスの新規資源化プロセスを開発したと発表した。250〜300度の高温水中、金属鉄存在下で木質系バイオマスの主要成分であるリグノセルロースを高効率で炭素数2〜6程度の水溶性化合物群に分解する方法で、従来の手法と比較してバイオマス全体の高い利用効率を実現できるという。
さらに、得られた水溶性化合物群は、ZSM-5などの固体酸触媒を用いて、エチレン、プロピレン、ブチレンなどのオレフィン系炭化水素やベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素に変換できることも確認されており、バイオマス資源からつくられる化学製品(グリーンケミカルズ)の基礎原料として有望だという。例えば、バイオマスから作ったプロピレンを既存のアクリル酸プラントに供給することができれば、再生可能資源由来のアクリル酸を製造することができるようになり、環境にやさしい高吸水性樹脂(紙おむつなどの原料)を実現できるとする。
温室効果ガスの削減に向けて、燃料や化学品原料へのバイオマス利用に対する関心が高まっている。これに貢献する技術の1つとして水熱分解(Hydrothermal Liquefaction)が知られている。この方法は、高温水中でバイオマスを熱分解して、水溶性および油溶性分解物を得るものだ。しかしながら、従来の方法(金属鉄非存在下)では、水溶性分解物および油溶性分解物の収率は約15wt%と低いうえに、分解物中の酸素含有量も高いため、追加の脱酸素工程が必要だった。加えて約40wt%と大量に生成する炭化物の処理も大きな課題となっていた。
一方、金属鉄を共存させて反応する同開発プロセスでは、水溶性分解物を60wt%程度の高い収率で得ることができる。このときの水溶性分解物中の酸素含有量は、原料に比べて約2割減少しており、脱酸素により炭化水素化が進んでいることも認められた。さらに銅やパラジウムなど水素化能をもつ金属を添加することで、分解と水素化(脱酸素)をより効率的に進めることが可能で、一段と炭化水素化が進んだ水溶性分解物を得ることができることも分かってきている。また、これまでの課題となっていた副生炭化物は金属鉄の再生に用いる還元剤として活用できるため、バイオマス全体の高い利用効率を実現できるというメリットもある。
同社では今後、はこの新規資源化プロセスの研究開発を推進すると共に、水溶性化合物群を利用したさまざまなグリーンケミカルズの製造も検討していく予定だ。このプロセスは、化石資源に依存することなく、バイオマスのような再生可能な炭素資源を化学品原料に変換できることから、持続可能な化学産業を切り拓くための一助となることが期待される。
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