洋上の風況観測を低コストに、揺れにくい「ブイ」を活用:自然エネルギー
洋上風力発電の課題の1つが、設置海域の風況観測に掛かるコストの高さだ。日本気象協会はその低コスト化を目指し、海面の波浪に伴う揺れが少ない低動揺ブイに、レーザー光の反射波を捉えて上空の風を計測するドップラーライダーを搭載したシステムを開発した。
日本気象協会は、洋上における風況観測の低コスト化を目指し、洋上風況観測システム「BuoyLidar(ブイライダー)」の開発を発表した。海面の波浪に伴う揺れが少ない低動揺ブイに、レーザー光の反射波を捉えて上空の風を計測するドップラーライダーを搭載したシステムで、2017年7月10日から山形県庄内沖で実証を開始した。
日本で再生可能エネルギーの導入拡大策として、洋上風力発電が期待されている。洋上風力の事業化を判断するには、設置海域の風況を把握することが欠かせないが、そのコストが課題となっていた。
日本気象協会は、環境省の「平成28年度CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業」に採択された「洋上風況の観測システム及び推定に関する技術開発・実証事業」で、低動揺ブイとドップラーライダーを組み合わせることで、高精度かつ低コストに洋上風況を観測できるシステムの開発と、洋上特有の気象・海象を考慮した風況推定手法(風況シミュレーション)の開発に取り組んできた。同事業における開発により、洋上に観測鉄塔を建設する従来手法では10億円以上を要していた観測コストを、10分の1程度に削減することを目指している。
今回開発した直径20mの動揺抑制フィンを装備した低動揺ブイは、波浪条件が厳しい海域でも波による動揺を抑えてブイの姿勢を安定的に保つ。搭載したドップラーライダーは、防塩・防水仕様で、動揺補正機能を有しているため、海上のブイの上でも風況を取得することが可能だ。また、長期間、安定的に電源を供給するため、電源システムには燃料電池を採用している。なお、低動揺ブイとドップラーライダーを組み合わせた風況観測システムは世界初だという。
今後はブイライダーを用いて、これまでほとんど観測が行われていなかった洋上の高度50〜150mにおける風況を測定する計画だ。山形県庄内沖での実証は約1年間を予定しており、その後は観測データを活用し、洋上の空間的な風況を把握するための3次元風況シミュレーションを行う予定だ。
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