発送電分離で激変する電力事業の“経営”、求められる視点とは:電力供給サービス(2/2 ページ)
2020年4月の発送電分離により、競争の激化が予想される電力市場。NECは米国のサクラメント電力公社、SpaceTime Insightと共同で、電力事業者向けの経営支援ソリューションの提供を開始した。3社のノウハウを組み合わせ、発電・送配電・小売の各事業者に対し、“発送電分離以後”に求められる経営を支援するという。
井島氏は今後の日本の電力事業では、「高度なデータ活用による経営課題の解決が必要になる」と述べる。例えば発電事業者であれば発電コスト低減を目指し、設備稼働状況の管理や維持管理業務の効率化していく必要がある。送配電事業者は、託送料金の低減や、送配電設備の安定稼働に向けた管理業務の高度化が求められるだろう。小売電気事業者についても、顧客情報の分析およびその結果を活用した戦略立案やサービス開発が、他社との差別化において重要なポイントになりつつある。これら全てに共通するのは、さまざまな“データ”を積極的に活用していく必要があるという点だ。
その上で同氏は、「NECのAI技術やセキュリティに関する技術、サクラメント電力公社の経営ノウハウ、Space Time Insightの技術を組み合わせていくことで、データを活用した電力事業者の次世代の経営を支援する最適なソリューションが実現できると考えている」と述べる。
3社協業によるサービスの提供先として、最初のターゲットとするのが、日本国内の送配電事業者だ。設備管理コストの削減や、投資計画などの意思決定の効率化への寄与を目指す「設備管理高度化ソリューション」を提案していく。
提案は3社による専任チームが行う。NECの顧客へのヒアリング、サクラメント電力公社による仮説立案、経営目標の設定やシステムの仕様検討を目的としたワークショップなどを実施し、システムの実装はNEC、SpaceTime Insightが担う。既に一部の事業者に対してヒアリングを始めているという。「現場の運用にこだわったシステムではなく、経営システムにどう連携させていくのか、という観点でシステムを実装していく方針。上位の経営者に最適に情報提供できるようなユーザー・インタフェースを考えていきたい」(井島氏)
サクラメント電力公社はSpace Time Insightは、共同でカリフォルニア州における送配電設備の運用高度化に取り組んだ実績がある。サクラメント電力公社が約320万米ドルを投じ、配電系統を“可視化”できるシステムを構築し、運用コストの削減や、再生可能エネルギーの導入率の向上、設備計画などの意思決定の迅速化などを実現したという。日本の送配電事業者向けには、さらにNECの異種混合学習技術や画像解析技術、セキュリティに関する技術などを組み合わせたソリューションの提案を行っていく。
この他、発電事業者向けの電源調達の最適化を支援するソリューション、小売電気事業者向けの顧客分析ソリューションなども拡充していく。これらのソリューションは、一般電気事業者だけでなく、地域新電力などの中小規模の事業者も対象になるという。
さらに、電力事業者だけでなく、企業や自治体、住宅など電力需要家向けのエネルギーマネジメントソリューションの提供も視野に入れる。井島氏は「日本国内では今後、大規模なメガソーラーの普及というのはあまり見込めない状況にきていると考えている。すると、住宅などの需要家側に太陽光発電を広げていく動きが進むだろう。その場合、需要家サイドの太陽光発電の電量をどのように上手く系統側に取り込むのか、あるいはマネジメントしていくのかが重要になると考えている。この領域でもサクラメント電力公社が北米で培ってきたノウハウなどが生かせるのではないかと考えている」と、期待を語った。
なお、これらのソリューションは、直近では国内の電力事業者をターゲットとするが、また、2019年度からはアジア・太平洋地域をはじめ、海外企業にも提案を進めていく方針だ。
関連記事
- IoT時代のエネルギー事業、顧客が求めるのは「電気やガス」ではない
電力システム改革をはじめとする制度改革に加え、IoT化が進むエネルギー産業。インテルが東京都内で開催したプライベートイベントの基調講演に、東京ガスと東京電力ホールディングスが登壇し今後の両社の事業戦略について語った。 - 電力市場17兆円をめぐる現状、参入した事業者のチャンスと課題
従来から企業・自治体向けに高圧の電力を販売していた事業者に加えて、家庭を含む小売全面自由化を機に新たに参入する事業者が一気に拡大した。巨大な電力会社に対抗するために小売電気事業者が実施すべきことは何か。勝者になるために必要な戦略と合わせて解説していく。 - エネルギーの地産地消で町が変わる、自治体が電力の小売に乗り出す
電力会社を頂点とする従来の市場構造を転換する試みが全国各地に広がってきた。自治体が主導して再生可能エネルギーを増やしながら、同時に地域内で消費できる循環型のエネルギー供給システムを構築する。4月に始まる全面自由化に向けて、自治体が出資する小売電気事業者も続々と生まれる。 - 5Gで遠隔施工の品質向上、KDDIとNECなどが実証へ
大林組とKDDI、NECなどは5Gを活用したICT施工の実現に向けて、建設機械による遠隔施工の実証実験を行う。「建設機械の無人化」「リアルタイム遠隔施工」などの実現を目指すという。 - NEC、欧州最大規模の蓄電システム構築を受注
NECの個会社であるNECエナジーソリューションズは欧州で最大規模となる蓄電システムについて、EnspireME(エンスパイアミー)と契約を締結した。システム稼働は2017年12月を予定する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.