低コスト燃料電池を実現、白金を使わない新触媒が実用化:蓄電・発電機器
日清紡ホールディングスは白金を使わない燃料電池用触媒の実用化に成功。カーボンを主原料とする触媒で、カナダの燃料電池メーカーが開発する固体高分子形燃料電池の電極に採用が決まった。
日清紡ホールディングス(以下、日清紡)は、開発を進めている白金代替触媒「カーボンアロイ触媒」が、カナダの燃料電池メーカーBallard Power Systems(ブリティッシュコロンビア州、以下、Ballard)の燃料電池スタックに採用されたと発表した。
カーボンアロイ触媒は日清紡と群馬大学が2006年から共同で開発を進めているカーボンを主原料とした白金代替触媒。炭素化工程の最適化と触媒表面の炭素構造を制御することで高い酸素還元活性を持つ。固体高分子形燃料電池の電極に非白金触媒が実用化されるのは、「世界初」(同社)という。カーボンアロイ触媒を使用したBallardの燃料電池スタックは、2017年12月からの販売を予定している。
固体高分子形燃料電池の電極触媒には、一般に高価で有限な資源である白金が使用されている。発電時に二酸化炭素を排出しない同電池をクリーンエネルギーソースとして今後さらに普及拡大させるためには、コストダウンを図るためにも白金に代わる触媒の開発が大きな課題の1つとなっている。
固体高分子形燃料電池の電極には、酸素を還元する空気極と水素を酸化する水素極があり、どちらにも白金が利用されている。一方、カーボンアロイ触媒は白金を一切使用せず、工業生産で安定供給が可能なカーボンを主原料とする。今回Ballardの燃料電池スタックの空気極側に、酸素還元能を持つカーボンアロイ触媒を採用することで、スタック全体の白金使用量を80%削減できたという。
日清紡はBallardと2013年から燃料電池触媒の共同開発を推進。今回カーボンアロイ触媒が採用されたのはポータブル型燃料電池のスタックだ。白金触媒と同等の発電性能に加え、高い耐久性が得られたことから採用が決まったとしている。
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