行動経済学の知見は、日本の省エネの切り札となるか:エネルギー管理(2/2 ページ)
行動経済学の知見を活用して、家庭部門の省エネを目指すーー。日本でこうした実証プロジェクトがスタートした。生活者を「そっと後押し」して省エネ行動を促すという、その実証の内容とは?
パーソナライズされた「省エネレポート」を送付
今回、日本オラクルと住環境計画研究所の実証が採択された、環境省の「平成29年度低炭素型の行動変容を促す情報発信(ナッジ)による家庭等の自発的対策推進事業」は、産学官連携による“日本版ナッジ・ユニット”を立ち上げ、ナッジを活用した取り組みの社会実装を目指すものだ。
では、今回の実証では、どのようにナッジを活用するのか。鍵となるのが、世帯別のエネルギー使用情報やアドバイスを記載した「省エネレポート」の送付だ。米Oracleは2016年に、電力事業者向けの需要家管理サービスを提供している米Opwerを買収している。同社は世界10カ国、約100社のエネルギー事業者と協力してナッジを利用した事業を展開しており、全世界で年平均2.0%の持続的な省C02効果を達成しているという。こうしたナッジ事業において、各家庭にパーソナライズされたエネルギー使用状況や、アドバイスを記載したレポートの送付は、省エネ効果が出ている手法の1つだという。
初年度となる2017年度の実証には、北海道ガス、東北電力、北陸電力、関西電力、沖縄電力が協力する。これら5社の管轄内、合計30万世帯に、Opwerのナッジ事業の知見を反映した紙ベースの省エネレポートを、年度内に合計4回送付する。30万世帯を対象とする実証は、海外の事例と比較しても、非常に大規模なものだという。
また、「日本固有の文化」の1つとして、キャラクター文化が根付いている点に着目し、今回の実証のために開発したキャラクター「そらたん」をレポートに盛り込む。15万世帯ずつ、異なる内容のレポートを送付することで、省エネ効果や、省エネ意識の変化などを計測していく計画だ。長期的にはスマートフォンアプリやSNSの活用による効果も検証していくという。
こうしたナッジを活用した消費者とのコミュニケーションによって、省エネの他、エネルギー事業者にはどのようなメリットが生まれるのか。日本オラクル セールスディレクターの村井建介氏は「例えば海外の事例では、こうしたコミュニケーションに反応する消費者であるほど、離脱率(電力の契約先を切り替える割合)が低くなるといったデータも出ている。今回の実証の第1目的は省エネ、CO2削減だが、そういったエネルギー事業者に対するメリットが出てくるかどうかという部分も見ていきたい」と話す。
また、住環境計画研究所 会長の中上英俊氏は「こうしたナッジを利用した手法による省エネ効果は、1世帯当たりで見ると数%かもしれないが、これが全国に広がれば、その効果は非常に大きなものになる。また、電力自由化が始まった日本において、顧客エンゲージメントを高め、新しいビジネスモデルを構築するきっかけとなることも期待したい」と語る。
なお、環境省の「平成29年度低炭素型の行動変容を促す情報発信(ナッジ)による家庭等の自発的対策推進事業」は、日本オラクルと住環境計画研究所の他、デロイトトーマツコンサルティング、電力中央研究所、東京電力エナジーパートナー、凸版印刷によるプロジェクトと、みやまスマートエネルギー、九州スマートコミュニティ、チームAIBODによる事業も採択されている。行動経済学の知見が、日本の家庭部門の省エネに対する切り札となるか、実証の成果に注目したい。
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