“消火できる“蓄電池を実現、寿命も延ばせる新電解液:蓄電・発電機器
東京大学とNIMSらの研究グループは、消火機能を備える新しい有機電解液を開発した。電極の劣化も少なく、安全かつ高エネルギー密度を両立する新型二次電池の実現を後押しする成果だ。
これまで蓄電池の発火事故の原因とされてきた電解液が、安全確保の切り札に――。
東京大学、京都大学、NIMSらの研究グループは、消火機能を備える有機電解液を開発したと発表した。既存の可燃性有機電解液と同等以上の電圧耐性を持ちながら、リチウムイオン電池やナトリウムイオン電池の寿命向上も可能にするという。電気自動車やスマートグリッドに適した、格段に安全かつ高いエネルギー密度を持つ新型電池の開発に寄与する成果としている。
市販のリチウムイオン電池に利用されている有機電解液は、有機溶媒を大量に含んでいるため、発火・爆発事故の最大のリスク要因とされている。一方、研究グループが開発した有機電解液は、難燃性の有機溶媒と電解質塩のみで構成しており、引火点を持たない。さらに、200℃以上に温度が上昇すると消火剤となる蒸気を発散する。
可燃性の有機溶媒を用いない点は、電池寿命の向上にも寄与するという。負極の劣化を遅らせることができるからだ。開発した有機電解液中で、リチウムイオン電池とナトリウムイオン電池用の炭素負極の耐久性を検証した。その結果、1000回以上(時間にして連続1年以上)の繰り返し充放電を行っても、負極がほとんど劣化しないことが分かったという。
正極との適合性も良好であり、3.8Vの商用リチウムイオン電池を超える4.6V級のリチウムイオン電池や、3.2V級ナトリウムイオン電池の安定した充放電にも成功し、電圧耐性が十分に高いことも確認できたとしている。
研究グループは今回の成果について、これまでは難しかった“攻めの蓄電池開発”が可能になるとしている。発火リスクの課題が解消されることで、電池形状やサイズの制限解除、マネジメントシステムの簡素化、外付け安全機構の撤廃、最大電流やカットオフ電圧などの制限緩和、高エネルギー密度・高反応性の電極材料の新規採用など、電池セルおよびシステムのエネルギー密度を大幅に向上させるさまざまな施策が行いやすくなるからだ。安全かつ高エネルギー密度を両立する、スマートグリッドなどでの利用に適した新型二次電池開発の加速が期待できるとしている。
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