再エネ電力を「アルコール」として貯蔵、九大が装置を開発:自然エネルギー
九州大学の研究グループは再生可能エネルギーの電力などを、アルコール様物質として貯蔵できる装置を開発した。再エネ電力の新しい貯蔵方法として期待できるという。
九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所の研究グループは2017年12月、カルボン酸であるシュウ酸と水から、電力を使ってアルコール様物質であるグリコール酸を連続的に合成する装置の開発に成功したと発表した。世界初の成果としており、再生可能エネルギーの電力を化学エネルギーとして直接的に貯蔵できる技術として期待できるという。
グリコール酸はエネルギー密度が高く安定な化合物で、貯蔵や輸送が容易な次世代の燃料として期待されている。ピーリング剤や生分解性ポリマーの原料として工業的にも広く使われている物質だ。一方、今回グリコール酸の原料として利用したシュウ酸は、大気中のCO2を吸収して成長する植物から得ることができる。
従来のグリコール酸の合成プロセスは、高温高圧条件を必要とするか、環境汚染物質となる有機物や塩の排出を伴うという課題があった。そこで研究グループは、シュウ酸と電力のみを利用してグリコール酸を連続的に製造する装置の開発に取り組んだ。既に二酸化チタン触媒がシュウ酸からの電気化学的なグリコール酸合成に有効であることを発見した。今回、新たに基質透過性を持つ膜-電極接合体と、それを使った固体高分子型グリコール酸電解合成装置を作製し、不純物を添加せずにシュウ酸からグリコール酸を連続的に製造することに成功した。
この技術により、効率的なグリコール酸の製造が可能になるだけでなく、再生可能エネルギーによって作られる電気エネルギーを、貯蔵性および輸送性に優れたグリコール酸に直接的に貯蔵できるようになることが期待される。研究グループは今後、さまざまな電極触媒や合成装置を開発し、より高効率にさまざまな物質にエネルギーの貯蔵が可能となるように研究開発を進めるとしている。
なお、今回の研究は科学技術振興機構CREST研究領域「再生可能エネルギーからのエネルギーキャリアの製造とその利用のための革新的基盤技術の創出」の支援を得た。研究成果の詳細は2017年12月12日に、国際科学誌『Nature』の姉妹紙であるオンラインジャーナル『ScientificReports』で公開された。
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