生産性を落とさず工場省エネは可能か、中国でEMS実証:エネルギー管理
中国でエネルギーマネジメントシステムを活用し、工場の生産性を落とさずに省エネを目指す実証プロジェクトが始まった。NEDOプロジェクトで日本企業数社が取り組むもので、複数のEMSで連携させ、デマンドレスポンスへの対応も目指す。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と横河電機、日本総合研究所、東京電力ホールディングスは、中国広東省のアルミ製品と紡績の2工場で、エネルギーマネジメントシステム(EMS)の導入実証を2017年12月から開始した。工場の一部を省エネ設備に更新し、エネルギー需給を制御して生産効率を高めながら大幅な省エネを目指す。さらに、2工場のEMSを連携させ、高度なデマンドレスポンスの実現可能性を検証する。
近年、中国はエネルギー消費量が世界第1位となり、国家発展改革委員会は国家政策として広東省をはじめとする中国各省に対し、エネルギー多消費産業(石油化学・製紙・紡績などの重化学産業、電機・自動車などの製造業、病院などの業務用ビル)を対象に、高い省エネルギー目標を課している。NEDOは、日本が強みをもつエネルギー技術・システムを対象に、相手国政府・公的機関などの協力により、海外の環境下における有効性を実証し、民間企業による普及につなげることを目的とした実証事業に取り組んできた。
今回は、実証でエネルギー供給改善、生産プロセスの歩留まり向上等を統合的に実現するEMSの構築と、既存設備の更新を行い、その有効性を実証する。具体的には発電機、蒸気発生器などの運用効率を最大化するエネルギー供給改善、生産工程のエネルギー消費分析により生産効率を最大化する生産プロセス改善、高性能ヒートポンプなど高効率な省エネルギー機器への設備改善などを行う。
また、中国の送配電会社などから工場に対する電力需給調整の要求が発動されることを想定し、各工場に導入されたEMSにより、2工場に対する要求を集約(アグリゲート)し、全体のエネルギー効率を最適化した計画を策定する。これをもとに、各工場の生産効率の低下を最小限に留めたデマンドレスポンスが実現可能であることをシミュレーションにより検証するとともに、既存設備の更新を行い、その有効性を実証する。
今回の実証では、日本の高度なEMSが、中国でも有効に稼働することを実証するだけでなく、日本の先進技術のショーケースとなることを目指す。横河電機はEMSによる発電設備や蒸気発生器などの効率的な運用や継続的な省エネルギー化活動。日本総合研究所はEMSによる工場内のエネルギー消費分析に基づく従来にない生産プロセス、生産効率の改善。東京電力ホールディングスは機器のエネルギー消費の分析による工場ごとの適切な設備更新を実施し、これら3社の技術を融合して実証に対応する。
同実証事業は、2020年度末までの実証期間に、システム・設備の設計・製作、輸送、据え付け、試運転などを行う。設置完了後、システム・設備の実証運転を行い、同エネルギー技術の実用性や有効性を検証し、中国国内への普及を図るためにセミナー開催などの普及活動を実施する予定だ。
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