地下熱を低コストに冷暖房に活用、新型蓄熱システムを開発:省エネ機器
NEDOと日本地下水開発らが地下帯水層に冷熱・温熱を蓄え、冷暖房に有効利用できる高効率帯水層蓄熱システムを新開発。従来手法より低コストに地下水の熱を活用できるという。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と日本地下水開発(山形市)は、秋田大学、産業技術総合研究所とともに、地下帯水層に冷熱・温熱を蓄え、冷暖房に有効利用できる高効率帯水層蓄熱システムを開発したと発表した。同システムを山形市内の事務所建屋の空調に導入し、実証実験を行った結果、従来システムと比べて初期導入コストの23%削減と、1年間の運用コストの31%削減を達成できる見込みがあることを確認したとしている。
再生可能エネルギーの利用拡大には、電力に加え、熱(地中熱・太陽熱・雪氷熱など)の利用も重要になる。しかし、再生可能エネルギー熱利用では、導入コストや運用コストが高いことが課題として挙げられる。そこでNEDOでは、再生可能エネルギー熱利用システムの普及促進・市場拡大を図るために、システムのコストダウンに関する技術開発を実施している。
今回、NEDOなど4者は、地下帯水層に冷熱・温熱を蓄え有効利用できる国内初という高効率帯水層蓄熱システムを開発した。同システムは、2本の井戸を冬期と夏期で交互利用し、地下水の流れの遅い地下帯水層に冬期の冷熱、夏期の温熱をそれぞれ蓄える。夏期は、冷房利用することにより温められた地下水を、さらに太陽熱により加温し、温熱として地下帯水層に蓄える。冬期は、その暖かい地下水を暖房利用し、さらに消雪の熱源として利用することで低温となった地下水を冷熱源として地下帯水層に蓄える。こうした地下帯水層の活用により、システム効率を向上させて大幅な省エネ化が実現できる。
同システムを山形市内の事務所建屋の空調に導入し、実証実験を行った結果、地下水をくみ上げ、ヒートポンプなどの熱源として利用する従来のオープンループシステムと比較して、初期導入コストの23%削減と、1年間の運用コストの31%削減を達成できる見込みがあることを確認したとしている。
オープンループシステムでは、熱利用後の地下水を地下帯水層に注入するのが困難となる課題が生じるほか、井戸の維持管理のために行う逆洗運転、運用コストアップの一因となっていた。そこで同事業では、密閉式井戸の開発、さらには短期間に低コストで設置する工法を確立することによって、揚水された地下水を逆洗運転することなく、地下帯水層への100%注入を実現した。
この他、再委託先である中外テクノスが地下微生物と地下水水質の定期的な分析・モニタリングを実施したところ、帯水層蓄熱システムの稼働に伴って帯水層に実用レベルの温度変化を与えても、環境影響はないと評価したとしている。
今後、高効率帯水層蓄熱システムの実証実験を引き続き実施し、地下水の注入状況などの稼働データモニタリングを継続しながら、システム効率などの検証を行うとともに、普及に向けた本システムの導入マニュアルの作成を進める。2019年度以降は、秋田大学と産総研が開発を進めている、東北地方主要5地域における帯水層蓄熱システムの適合性評価を目的としたポテシャルマップを活用し、同システムの適合可能な地域に積極的に高効率帯水層蓄熱システム導入を進める方針だ。
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