浅い海域に導入できる新型洋上風力、実証機が完成:自然エネルギー
NEDOプロジェクトで開発が進んでいた、新しい浮体を活用した洋上風力発電システムが完成。日本の周辺海域に適した、「バージ型」と呼ぶ浅い水域に設置可能な浮体を採用しているのが特徴だ。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と丸紅などのコンソーシアムは2018年8月10日、日本初という「バージ型浮体」に風車を搭載した浮体式洋上風力発電システムの実証機が完成したと発表した。北九州市沖に設置し、2018年秋から本格的な実証運転を開始する。
同システム実証機は水深50メートル程度の浅い海域でも設置が可能なバージ型と呼ばれる小型浮体を採用し、コンパクトな2枚羽風車を搭載している。
洋上風力発電は風車を支える基礎構造の形式により、海底に基礎を設置する「着床式」と、基礎を海に浮かべる「浮体式」に大別される。NEDOが実施した調査では、日本近海で洋上風力発電が導入可能な着床式と浮体式を比較すると、浮体式は着床式の約5倍の導入可能面積を有しているという。しかし、世界的に商用化が進んでいる浮体式の1つである「スパー型」は100メートル程度の水深が必要になる。そこで、水深50〜100メートルの範囲に設置でき、着床式に対してコスト競争力のある浮体の開発が課題となっていた。
こうした中、NEDOでは2014年度から、水深50〜100メートルに適用可能かつ低コストな浮体式洋上風力発電システム実証研究を開始し、実証海域の選定、浮体の設計・製造を進めてきた。2018年6月に、バージ型と呼ばれる小型浮体を製作。そして、このほど、NEDOと丸紅、日立造船、グローカル、エコ・パワー、東京大学、九電みらいエナジーのコンソーシアムが、バージ型を採用する浮体式洋上風力発電システム実証機を完成させた。
システム実証機は、鋼製のバージ型浮体構造物にコンパクトな2枚翼アップウィンド型の3MW(メガワット)風車を搭載しており、スタッドレスチェーンと超高把駐力アンカーの組み合わせによる計9本の係留システムで係留し、厳しい気象・海象条件においてもシステムの安全性が確保されるよう設計を行った。風車のローター径は100メートル、ハブ高さ72メートルで、重量は約133トン(ロータ・ナセル)。浮体形状は長さ51×幅51×高さ10メートルで、喫水約7.5メートル、重量は3100トン(風車、バラスト含まず)となっている。風車、係留、バラスト含む総重量は9858トンにおよぶ。
実証機の開発では、丸紅がコスト分析、関係機関との調整、日立造船が浮体設計、製作、設置工事、グローカルが風車選定および係留システムの開発、エコ・パワーが環境影響評価、東京大学が本システムの性能評価およびコミュニケーション活動、九電みらいエナジーが 系統連系協議および電力品質評価についてそれぞれ担当した。
今後、実証機は北九州市沖15キロメートル、水深50メートルの設置海域まで曳航し係留、電力ケーブルを接続した後、試験運転を行い、2018年秋〜2021年度にかけて実証運転を開始する。発電した電力は九州電力の系統に接続する予定だ。実証運転中は、計測データによる設計検証や遠隔操作型の無人潜水機を使用した浮体や、係留システムの効率的な保守管理方法の技術開発を行い、低コストかつコンパクトな浮体式洋上風力発電システムの技術の確立を目指す。
関連記事
- 世界で広がる洋上風力、日本での導入拡大に必要なものとは?
日本風力発電協会(JWPA)が、国内における洋上風力の導入推進に向けた提言を取りまとめた。今後、洋上風力を円滑に導入するために必要なことはなにか? 同協会の理事である加藤仁氏が語った。 - 太陽光・風力発電のコストが急速に低下、海外で単価3円を切る電力の契約も
世界の再生可能エネルギーの最新動向について、自然エネルギー財団のトーマス・コーベリエル理事長が東京都内で講演した。太陽光と風力が各地域で拡大して、発電コストが火力や原子力を下回る状況になってきた事例を紹介するとともに、導入量が増加しても送配電の問題は生じないと語った。 - 風力発電市場は2030年に10兆円に迫る、国内市場は7倍に
富士経済は風力発電システムの世界市場の調査結果を発表した。2016年は前年比で減少傾向にあるものの、長期的に市場拡大が続き、2030年には9兆7200億円にまで拡大すると予測している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.