多種多様なソーラーシェアリング、知っておきたい設備の基本:ソーラーシェアリング入門(3)(2/2 ページ)
太陽光発電と農業を両立する手法として、近年、国内で大きな期待と注目を集めている「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)」について解説する本連載。今回はソーラーシェアリング設備の種類やポイントについて解説する。
パネルの種類・設置方法にもさまざまな工夫
設置される太陽光パネルの種類にも特徴があり、60セルや72セルの野立てに使われるものと同じ汎用サイズのものから、農作物への影の影響を抑えるために24セルや27セルで2列・3列のスリムサイズのもの、はたまた住宅用に使われる正方形に近いサイズのものまで、大きさや形状がさまざまです。
結晶系では単結晶が好まれるほか、最近では両面ガラスや両面受光セルを使用したものも増えてきています。ちなみに、PCS(パワーコンディショナー)だけは野立てと特に変わるところはありませんが、農地では周辺に遮るものがないことから静粛性が求められたり、農作業による砂埃(すなぼこり)などに耐える性能が必要とされたりします。
設備の設計で重要なのは、太陽光パネルのレイアウトによる遮光率と、農作業に支障のない支柱間隔や架台高さの確保です。ほとんどの作物の生育に影響が少ないとされるのは遮光率30〜35%程度で、支柱の間隔は小型のトラクター1往復で耕せる4m程度、そして架台の高さは最低限2.5〜3m程度が必要になります。
基礎構造は設置する農地によって異なりますが、野立てと同じようにスクリュー杭を使用する方式が最近は良く見受けられます。ただ、これも設置する場所が水田なのか畑なのか、更には地質調査を行ってどの程度地盤の強度が確保されているか、支柱の高さに対して適切な深さまで基礎を打ち込めるかなどを見極めなければなりません。太陽光パネルの設置方法は野立てで見られる「アレイ」構造ではなく、1枚1枚を独立して設置する方式が主流です。これによって、農地に対して均等に日射量を確保することが出来、作物の生育ムラなどを避けられます。
また、ソーラーシェアリングを立てる敷地の中でトラクターなどが展開するスペースを確保したり、作業の支障にならない場所にPCSを設置したりと気を使う点は多岐にわたります。農作業中に電気ケーブルを損傷しないような保護措置など、農作業者に対する安全確保の視点も大切です。高圧連系の設備の場合は、キュービクルをどこに設置するか、PCSを分散型にするか集中型にするかなども注意しなければなりません。こういったさまざまな要素を考慮して、「農作物の生育、農作業の効率性」に配慮することを大前提に、ソーラーシェアリングの設備設計は行われることになります。
著者プロフィール
馬上 丈司(まがみ たけし)
1983年生まれ。千葉エコ・エネルギー株式会社代表取締役。株式会社エコ・マイファーム代表取締役。一般社団法人ソーラーシェアリング推進連盟代表理事。千葉大学人文社会科学研究科公共研究専攻博士後期課程を修了し、地方自治体における再生可能エネルギー政策に関する研究により、日本初となる博士(公共学)の学位を授与される。専門はエネルギー政策、公共政策、地域政策、農業政策。2012年10月に大学発ベンチャーとして千葉エコ・エネルギー株式会社を設立し、国内各地で太陽光・小水力・バイオマスなどの自然エネルギー源による地域活性化事業に携わる。2013年よりソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)に取り組み、国内外で200件以上のコンサルティング実績を持つ。2018年4月に一般社団法人ソーラーシェアリング推進連盟の代表理事に就任し、各地で講演活動等も行いながらソーラーシェアリングの普及に尽力している。
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