再エネで地域課題を解決、日本版シュタットベルケが動き出す:自然エネルギー(2/2 ページ)
ドイツの公共インフラサービス事業者「シュタットベルケ」。日本においても、自治体新電力の目指すべき姿として、しばしば語られる。そもそもシュタットベルケとは、どのようなものなのか? 日本版シュタットベルケの可能性は? 日本シュタットベルケネットワーク設立1周年記念シンポジウムに、その答えを探った。
地域でお金を回し、自立的発展の契機に
JSWNW代表理事のラウパッハ・スミヤ ヨーク氏(立命館大学経営学部教授)は、日本においては新電力事業にのみ目が行きがちだが、日本版シュタットベルケにあっても「総合インフラサービスによって地域課題の解決に貢献すること」を目指すべきだと話す。これまで日本の社会インフラは、電気・ガス等は民間、上下水道等は自治体というように民・官別の縦割りが当たり前だった。これでは個別的な効率性や、部分的な最適化しか得られない。しかし、官民連携に基づくネットワーク型の事業運営によって総合インフラサービスを提供していけば、全体最適と各種事業の相乗効果を期待することもできる。
こうした考えを受けて登壇した、みやまスマートエネルギー(福岡県みやま市)の白岩紀人氏(電力事業部執行役員)も、「電力事業は地域課題を解決するための資金づくりの手段であり、地域経済循環の起点であることが重要で、電力事業そのものが目的ではない」と述べる。
白岩氏がいう地域課題とは、「独居老人世帯の増加や過疎化への対策」「若者が定住し、子育て世代が住み続けられる街づくり」「地域産業振興、とりわけ農林業の振興」などだ。エネルギーの地産地消を軸に地域経済の自立的発展を図り、新たな地域雇用を創出し、定住基盤の確立を目指していきたいという。みやまスマートエネルギーは、みやま市が55%を出資する自治体新電力の草分け的存在であり、日本版シュタットベルケの先行事例とも目される。同社のビジョンは、日本各地の自治体に少なからず共通するものといえるだろう。
「再生可能エネルギーを基本にした地域エネルギーマネジメント」と題して講演を行ったローカルエナジー(鳥取県米子市)の森真樹氏(常務取締役)も、「エネルギー消費により、地域からお金が流出してしまう従来の仕組みを、地域でお金が回る新しい仕組みに変えていきたい」と話す。同社が調達している電源は、太陽光発電21施設、バイオマス発電2施設、小水力発電1施設、地熱発電1施設で、地産電源の割合は32.3%とのことだが、今後はさらに地域内再エネ電源の調達に努め、地域熱供給事業などにも取り組んでいきたい考えだ。
ローカルエナジーでは、地域エネルギー事業に新たなサービスを付加すべく、新事業モデルの検討も進めている。キーワードは、「ブロックチェーン」「AI」「VPP(バーチャルパワープラント)」。例えば、ブロックチェーン技術を活用することで、太陽光発電設備を設置した住宅のCO2削減価値を認証し、その価値をCtoCで取引することも可能になるという。「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)」の買取期間が終了する卒FIT案件の出現を見据えた、これまでにないビジネスモデルだ。
来賓あいさつにおいて、環境省の森下哲氏(地球環境局長)も述べている。「日本には再生可能エネルギーの大きなポテンシャルがあるが、また十分に生かされていない。エネルギーのために大変なお金が、域外に、そして海外に流れている。エネルギーの購入代金として日本から海外に流出した金額は、ピーク時には年間28兆円にも達している。人口割をすると、50万人の自治体で年間約1000億円という額に上る。こうした流出を減らすためにも、再エネを増やしていくことが重要。そのお金を地域で回すことで、地域を活性化することもできる。地域で再エネを進めていく母体として、日本版シュタットベルケが発展することを支援していきたい」。
当日は、地域エネルギー事業者、再エネ関連事業者、自治体関係者、研究者など、日本各地から約170人が参集。休憩時間にも、会場のあちこちで議論が交わされ、あつい熱気に包まれた。
ドイツのシュタットベルケは、地域配電網を自ら運営できるなど、日本とは前提からして異なる部分もある。単純にそのモデルを真似しても、成功が約束されるものではない。しかし、シュタットベルケの理念が、日本においても1つの理想となることは間違いないだろう。電力小売全面自由化から2年半、日本版シュタットベルケは、まだ産声を上げたばかりだ。再生可能エネルギーのさらなる普及発展と、地域社会の活力を取り戻すために、日本版シュタットベルケの進展に期待したい。
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