目標は再エネ100%、シンガポールの離島で進むマイクログリッド実証を探訪:太陽光(3/3 ページ)
集中型エネルギーシステムから分散型エネルギーシステムへ。電力系統の在り方が、いま改めて問われている。フランスの重電大手・シュナイダーエレクトリックが、同国のエネルギー大手・エンジーとともに展開する、シンガポールのマイクログリッド実証プロジェクトを訪ねた。
電力系統と連携する「オングリッド」のマイクログリッド
セマカウ島のSPOREは、広域の電力系統から隔絶された「オフグリッド(off-grid)」のマイクログリッドだった。しかし、マイクログリッドはオフグリッドに限定されるものではない。電力系統と連携しながら、エリア内に独自の電力網と発電設備を有し、エリア内の自立した電力運用を可能とする「オングリッド(on-grid)」のマイクログリッドも存在する。はじめに触れたように、エネルギーシステムのレジリエンスの観点からは、このオングリッド型マイクログリッドの構築を後回しにするわけにはいかない。
シュナダーエレクトリックは、オフグリッド型とオングリッド型、それぞれにマイクログリッドの普及拡大を目指している。フランス・グルノーブル市に専用ラボを設けて研究開発を進めるとともに、同市やリヨン市など都市部におけるマイクログリッドの実証も重ねている。セマカウ島SPOREで蓄積されるデータやノウハウも、単にオフグリッド型の実証に留まらず、オングリッドに関する技術を基礎付けるものとして役立っていくという。
マイクログリッドのコンセプトは、米国で1996年、西部地域で大規模な停電が発生し、電力系統の信頼性に不安が生じたことなどから提唱されるようになった。欧州においても、EU加盟国の共同プロジェクトとして、2003年から研究が進められてきた。日本も同時期に、最初のマイクログリッド研究に着手している。このようにマイクログリッドは、既に各国で一定の歴史をもち、いよいよ商業化に向けた最終局面を迎えているのだ。
再生可能エネルギーの発電コストは劇的に低下し、電力の安定供給・品質確保のための技術は飛躍的に向上した。太陽光や風力など分散型電源がもつ不安定性への懸念は、IoTなど最新テクノロジーを駆使した需給管理技術や蓄電システムの高度化により、過去のものになろうとしている。マイクログリッドの普及を支える条件は、着実に整ってきているのだ。この先、マイクログリッドの導入がどのように進み、既存のエネルギーシステムをどう変えていくのか、興趣が尽きない。
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