環境目標の“科学的な整合性”を裏付ける、SBT認定の手順とポイント:「ポストパリ協定時代」における企業の気候変動対策(3)(2/2 ページ)
「パリ協定」以降の企業の気候変動対策について解説する本連載。第3回は代表的な気候変動イニシアチブである「SBT(Science Based Target)」の認証取得に向けたポイントについて解説する。
SBT目標を設定するためステップ
再びSBTの話に戻る。自社のScope1から3までの排出量を把握できたなら、定められた手順に従って削減目標を設定していく。目標設定の手順については、世界自然保護基金(WWF)などの自然保護団体や環境系のコンサルティング会社が開発したものなど複数のものがある。特に思い入れがなければSBTイニシアチブ自身が開発した「セクター別脱炭素化アプローチ(SDA)」※2に従ったツールか、環境省のグリーンバリューチェーンプラットフォーム※3に掲載されている総量削減算定ツールを用いるとよいだろう。後者については、基準年の排出量(Scope1、2)につき、SBTが定める最低水準である2050年までに2010年比49%削減のシナリオに沿った算出を行うことが可能である。基準年と目標年、そして基準年におけるScope1、2の数値を入力すれば、削減水準が表示される。
※2 https://sciencebasedtargets.org/sda-tool/
※3 https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/intr_trends.html#num05
SBTに認定されるには、全排出量のうち、Scope3が占める割合が大きい場合(Scope1+2+3の40%以上)、Scope3の目標も報告しなければならない。特に製造業においては、一般的にScope3の割合が大きくなるので、Scope3算定は必須になると思ってよいだろう。
SBT認定に当たっては、まずはコミットメントレターをSBTイニシアチブ事務局に提出する。これにより事務局を務めるWWFやCDP、世界資源研究所(WRI)、そして国連グローバル・コンパクト(UNGC)が、コミットメントがなされたという事実を対外的に発表する。コミットメントレターを提出してから24カ月以内に、Scope1から3の現状と、目標を記載したフォームを提出する。
この際、Scope1、2の目標については上記のツールを用いて算定すればよいが、Scope3については「野心的」な目標設定を設定することが求められるのが特徴だ。何をもって「野心的」とするかは当該の企業が所属している業界や、今までのScope3排出状況によって判断基準が各社ごとに異なる。従って、Scope3の目標設定に当たっては、SBTイニシアチブ事務局とのコミュニケーションが必要になる。前述のとおり、Scope3の算定に当たってはバリューチェーン全体の排出量を把握するため、扱うデータが多岐にわたり、量も膨大となる。SBT事務局との連携も含め、外部のコンサルタントを活用するなど効率的に作業を進めるべきだろう。
無事SBTの認定を得られた後は、バリューチェーン全体のGHG排出状況を毎年開示し、削減に向けての進捗(しんちょく)を報告していくことになる。
SBTにおいて要請される行動プロセス 出典:WWF 「Science-based Target Setting Workshop」資料(2015.11)(https://www.wwf.or.jp/corp/upfiles/20151109WWF_smnr02.pdf)
次回は今回紹介したSBTと同様に、代表的な国際イニシアチブである「RE100」について解説する。
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