環境分野で最重要の格付指標となった「CDP」、効果的に活用するポイントとは?:「ポストパリ協定時代」における企業の気候変動対策(5)(4/4 ページ)
「パリ協定」以降の企業の気候変動対策について解説する本連載。最終回となる今回は、ESG投資家が企業の気候変動対策についての重要指標として参照する「CDP」の活用手法と、気候変動対策に関する企業の「情報発信」の手法について解説する。
気候変動への取り組みをどう「発信」していくべきか?
本連載では、「パリ協定」以降におけるさまざまな動きについて、各種イニシアチブを中心に解説してきた。SBTやRE100は非常に画期的な取り組みであり、今後多くの日本企業がこれらのイニシアチブに向け、何らかの検討を進めていくことと思う。もしこれらの取り組みにチャレンジするのであれば、それをどのように対外発信していくかにも、ぜひ心を砕いていただきたい。現在の日本のエネルギーは大きく化石燃料に依存してしまっており、国際社会の場で気候変動対策のリーダーシップを取れているとは言い難い。環境技術に優れた日本企業がイニシアチブに積極的に参加し、効果的な対外発信を行うことは、日本のプレゼンス向上にも役立つに違いない。
この連載でご紹介したイニシアチブは世界の機関投資家に認知されている取り組みだが、同時に各種メディアに対する訴求力も高い。積極的な取り組みと対外発信は社員、顧客、取引先、入社希望の学生など、さまざまなステークホルダーにも良い影響を与える。せっかくコストをかけて気候変動対策をするのだから、自社の価値を最大限に高める効果的な対外発信を心掛けたい。最後に、効果的な対外発信についての成功事例を基に、示唆を幾つか述べ、本稿の締めくくりとしたい。
早めに着手する
日本企業で初めてRE100に参加表明したのはリコーだが、おかげで本稿のような解説記事では、RE100の紹介と同等の頻度でリコーも紹介されるようになった。イニシアチブの参加企業数が少ないうちに手を挙げた企業は、環境対策だけでなく、決断・行動の早い企業としても認知される。前述の通り、平均気温の上昇は過去から累積されたGHG排出量に影響されるため、早めの着手はグローバルな気候変動抑止の実効性を上げることにもつながる。ちなみに、「RE100に参加した」日本企業は10社を超えるが、マイクロソフトやアップルのように「RE100を達成した」日本企業はまだない。「達成一番乗り」の座はまだ空いている状態である。
切り口を変えてみる
イニシアチブに参加すると、「○○業界で初めてRE100に参加」などといった報道がなされることが多いが、既にほとんどの業界でイニシアチブ対応を進める企業が出てきており、こうした文言は昨今飽和することが予想される。丸井グループは、2018年7月10日にRE100に参加表明したが、同時にブロックチェーンを用いた再エネ調達の方針を明らかにしたため、IT技術者からも注目を集めることとなった。日本ではエネルギー産業とブロックチェーン技術を結びつける事例は少ないが、実は、欧米を中心に太陽光発電を行っている家庭同士が電力を融通する仕組みを、ブロックチェーンを使って提供するなど、再エネとブロックチェーンの双方の領域で活躍するベンチャー企業が多数生まれているのである。このような新しいテクノロジーや制度を活用した再エネ調達方針を示すなど、さまざまな切り口でユニークな取り組みを行い、訴求力の高い対外発信をめざすことも可能だ。
多言語で発信する
ESG投資を積極的に行う機関投資家の多くは海外にある。自社の気候変動に関する取り組みを対外発信する際は、できる限り日本語の対外発表とタイミングを合わせ、英語などでも発信を行うべきである。
協議会・勉強会などに参加する
環境省、IGES(地球環境戦略研究機関)、自治体などが、気候変動対策を志向する企業向けのセミナーを頻繁に開催している。連載第2回でご紹介した「気候変動イニシアティブ(Japan Climate Initiative:JCI)」など、イニシアチブ参加に向け積極的に活動している協議会も存在する。こうしたコミュニティに参加した際は、先行する企業から学ぶとともに、ぜひ自らの情報発信も進めていきたい。気候変動対策に積極的な企業では、毎年COP(気候変動枠組条約締約国会議)に社員を派遣しているところもあるようだが、情報収集だけでなく、世界に向けて自社の取り組みを発信する日本の企業も今後さらに増えていくことが期待される。
終わりに
パリ協定で定められた「2℃目標」について、世界が本気で取り組めば目標達成が可能だと信じている人々は、決して少なくない。以前出会ったグローバルトップ企業の環境担当者から、「わが社は世界に対して大きな影響があるのだから、私たちがまず動きさえすれば他者も追随する。そうすれば、早々にパリでの目標も達成される」と言われ、その自信に裏付けられた楽観に少なからず驚いたものである。日本企業の多くは、まだそこまでの楽観視に至っていないかもしれないが、本稿で解説したRE100やSBTといったイニシアチブは、そもそも「私たちは必ず2℃目標を達成する。達成は可能である」という世界が同意した未来観の下に作られた制度であることを思い起こし、ぜひ前向きな取り組みを進めていただければと思う。
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