シリコンを上回る変換効率、量子ドット太陽電池の新製法を開発:蓄電・発電機器
花王、東京大学、九州工業大学の研究グループは高いエネルギー変換効率が期待できる「中間バンド型量子ドット太陽電池」を、液相法で作製する技術の開発に成功。世界初の成果であり、安価かつ軽量で、フレキシブルな高効率太陽電池の研究開発の加速に貢献するものとしている。
花王 マテリアルサイエンス研究所と東京大学 先端科学技術研究センター、九州工業大学の共同研究グループは2019年1月、高いエネルギー変換効率が期待できる「中間バンド型量子ドット太陽電池」を、液相法で作製する技術の開発に成功した。世界初の成果であり、安価かつ軽量で、フレキシブルな高効率太陽電池の研究開発の加速に貢献するものとしている。
現在主流のシリコン(SIT)材料を利用した単接合型太陽電池では、太陽光のうちバンドギャップ(電子が存在することのできない領域)以上のエネルギーを有する光子は吸収した後にエネルギーが熱に変換され、バンドギャップ以下のエネルギーの光子は透過して光電変換ができない。これがエネルギー変換効率を制限する一因となっている。そこで、さらなる高いエネルギー効率を実現する次世代太陽電池の1つとして注目されているのが、中間バンド型太陽電池に注目が集まっている。
今回研究グループが新しい製造方法を開発したのは中間バンド型の量子ドット太陽電池。中間バンド型量子ドット太陽電池は、バルク(母体)半導体中にナノサイズ半導体(量子ドット)を高密度に充填(じゅうてん)したナノ構造体(光吸収層)から構成される。このナノ構造体は従来、超高真空下で基板上に原子1層ずつの単結晶膜を成長させるエピタキシー法などの「気相法」で作製されてきた。しかし材料の制約や設備負荷などの問題から安価で製造することには課題があった。
そこで、量子ドット(硫化鉛)の表面にヨウ化物イオンを配位させることで、ペロブスカイト前駆体(メチルアミン臭化水素塩、臭化鉛)のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液に量子ドットをナノレベルで分散・安定させたコート液を調製。このコート液をスピンコート(液相法)することでナノ構造体(光吸収層)を基板上に結晶成長させて太陽電池を作製した。
作製したナノ構造体はペロブスカイト(臭化鉛メチルアンモニウム)バルク半導体中に、平均粒径4nm(ナノメートル)の量子ドット(硫化鉛)を高密度に充填しており、中間バンドを形成した設計通りの光吸収層であることを確認できたという。さらに、この光吸収層を含む太陽電池が、中間バンドを介した2段階光吸収により発電している、すなわち中間バンド型太陽電池として機能していることを確認した。
研究グループは今回の成果について、理論限界約31%といわれるシリコン系汎用太陽電池のエネルギー変換効率を超える太陽電池を、安価・軽量・フレキシブルで製造できれば、メガソーラーや住居用だけでなく、充電不要の電気自動車やモバイル機器などさまざまな用途への適用が期待できるとしている。
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