全国の実態調査で見えてきた、ソーラーシェアリングの現状と課題:ソーラーシェアリング入門(10)(2/2 ページ)
農業の新しい収益源として注目が集まっている「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電事業)」について解説する本連載。今回は千葉大学らが実施したソーラーシェアリングに関する全国調査の結果から見えてきた、ソーラーシェアリングの現状と課題について考察する。
農業振興への貢献に対する認知向上が課題に
申請に対して不許可とした事例が30件ありましたが、半分以上が1つの市町村に集中しており、それ以外の事例では農地の利用形態がそぐわない、農地の効率的な利用に支障を来す恐れ、事業者による取り下げなどが挙げられています。ソーラーシェアリングは農用地区域内農地や第1種農地でも導入可能なことが特徴ですが、集団農地の効率的な利用に支障を来さないようにするといった条件付けがあります。そしてその基準は許可権者の裁量に委ねられているため、審査において引っかかることがあります。
「ソーラーシェアリングについてどのように考えるか」を問う設問(複数回答可)には幅広い回答が寄せられましたが、「太陽光パネルの下で十分に営農できないと思う」や「わざわざ農地の上で太陽光発電をしなくてもいいと思う」という回答が多く、ソーラーシェアリングが農業振興に貢献している事例や、営農実績のデータなどをもっと周知していく必要性を感じる結果となりました。
ちなみに、くしくもこのニュースリリースと同日に、農林水産省から「営農型太陽光発電 取組支援ガイドブック 2018年度版」(クリックでリンク先、pdf)が公表されています。取り組み事例集として15事例が紹介されているほか、金融機関による融資メニューや国による支援制度なども掲載されています。
このガイドブックに掲載されているように、ソーラーシェアリングによって地域の農業振興が果たされる取り組みも全国的に増えてきていますが、こういった農業者による取り組みはなかなか世間での認知度が高まらないのが現状です。
設備の規模や遮光率などについても回答の集計を行いましたが、回答者によって遮光率の理解(パネルの覆う面積か、覆わない面積か)や、設備の容量(パワコンベースとモジュールベース)、設備の面積(設備下の面積か事業計画農地全体の面積か)が異なっていると見られ、有意な結果とはいえないものとなりました。
今回の調査によって、今まで明らかにはなっていなかったソーラーシェアリングの普及の実態や、各地の農業委員会の理解、印象などが分かってきました。私自身もソーラーシェアリング事業に取り組み、普及啓発にも力を入れてはいますが、まだまだ農業委員会に対してはその情報を十分に届けられておらず、ソーラーシェアリングへのマイナスイメージも抱かれたままであるという実態を再認識する結果となりました。
ソーラーシェアリングの普及初期の実態と課題がこうして明らかになったことで、今後はこのデータを踏まえ、さらなる普及拡大とソーラーシェアリングが目的とする農業の振興に資する取り組みを増やしていくためのアクションを、考えていきたいと思います。
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