再エネで「CO2フリー水素」を低コスト化、「世界初」の技術検証に成功:自然エネルギー
JXTGエネルギー、千代田化工建設、東京大学、クイーンズランド工科大学らの研究チームが、再生可能エネルギーの電力を利用してCO2フリーの水素を作る新しい製造技術の検証に成功。従来技術と比較して設備コストを50%削減できる見込みだという。
JXTGエネルギー、千代田化工建設、東京大学、クイーンズランド工科大学は2019年3月、オーストラリアにおいて有機ハイドライド低コストで製造し、日本で水素を取り出す世界初の技術検証に成功したと発表した。東京大学主催の水素サプライチェーン構築を目指す社会連携研究の一環で、次世代のエネルギーとして期待される水素を、再生可能エネルギーを利用してCO2フリーかつ低コストに製造する技術の実現を後押しする成果だという。
燃焼時にCO2を排出しない水素は、次世代のエネルギーとして注目が集まっている。一方で社会への普及を目指すには、水素サプライチェーン全体の低コスト化が求められている。
そこでJXTGエネルギーらの共同研究グループは、水素の低コスト化を目指し、有機ハイドライド製造の工程を簡素化できる技術の検証に取り組んだ。
有機ハイドライドとは、水素を貯蔵・運搬できる物質の1種。水素をそのまま貯蔵・輸送する場合、高圧タンクを用意する必要があるなど、コスト面で課題がある。そこで有機ハイドライドなど、常温常圧かつ液体で扱える「水素キャリア」を利用して貯蔵・輸送を行う方法が検討されている。
従来、水素を貯蔵・運搬する際には、水電解によって生成した水素をタンクに貯蔵し、有機ハイドライドの一種であるメチルシクロヘキサン(MCH)に変換して運搬する必要があった。一方、研究グループが考案した手法は、水とトルエンから直接MCHを製造する「有機ハイドライド電解合成法」と呼ばれる製法で、従来に比べMCHを製造するまでの工程を大幅に簡略化でき、低コスト化につながるというものだ。将来的にはMCH製造に関わる設備費を約50%低減できる見込みだという。
今回この製造技術の検証は、2018年12月5日〜2019年3月14日にかけてオーストラリアで実施した。クイーンズランド工科大学が所有する集光型太陽光発電で発電した電力を利用し、有機ハイドライド電解合成法でMCHを製造。そのMCHを日本に輸送して、水素を取り出すことに成功した。具体的には水素を0.2kg取り出すことができたという。
今後研究グループは、この製造技術の実用化に向け、引き続き開発を続ける方針だ。
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