人工光合成で世界最高の効率7.2%、トヨタ系が実用サイズの太陽電池で達成:太陽光
トヨタ自動車グループの豊田中央研究所が、CO2と水から有用な物質を合成する「人工光合成」を、実用サイズの太陽電池を利用して実現し、変換効率7.2%を達成したと発表した。36cm角の太陽電池を利用したもので、このクラスでは世界最高の変換効率になるという。
トヨタ自動車グループの豊田中央研究所は2021年4月21日、CO2と水から有用な物質を合成する「人工光合成」を、実用サイズの太陽電池を利用して実現し、変換効率7.2%を達成したと発表した。36cm角の太陽電池を利用したもので、このクラスでは世界最高の変換効率になるという。
人工光合成とは、文字通り人工的に植物の光合成と同じ現象を発生させる技術。光合成は、植物の生命活動に利用されている現象で、太陽エネルギーを利用して、二酸化炭素(CO2)と水(H2O)から炭水化物などの有機化合物を作り出す。これの現象を人工的に発生させることができれば、地球温暖化の要因であるCO2の減少に貢献するだけでなく、環境負荷の高い物質を排出しない新たなクリーンエネルギーが得られるとして、高い関心を集めている。
豊田中央研究所が研究を進めている人工光合成は、半導体と分子触媒を用いた方法で、CO2の還元反応と水の酸化反応を行う電極を組み合わせ、常温常圧でギ酸(有機物)を合成するというもの。これまでの変換効率は、2015年に達成した当時世界最高の4.6%だった。
人工光合成を社会実装するためには、変換効率を維持したまま、利用する太陽電池セル(人工光合成セル)を実用サイズまで拡張する必要がある。しかし、セルの拡張と変換効率の両立は、これまで技術的に困難とされてきた。
そこで豊田中央研究所では、太陽光で生成した電子を余すことなくギ酸の合成に利用できる新しいセル構造と電極を考案。この手法では、生成される電子の量に対する電極面積のバランスが良く、同時にギ酸合成に必要な電子、水素イオン、CO2を電極全面に途切れることなく供給できるという。
この手法を用いた結果、36cm角の実用サイズの人工光合成セルにおいて、世界最高の7.2%という変換効率の達成に成功した。この新たなセル構造はより大きなサイズにも適用可能という。
豊田中央研究所では将来的にこの人工光合成技術を、工場などから排出されるCO2の回収と資源化に適用することを目指すとしている。
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