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全固体電池の性能が低下する原因を解明、加熱処理で性能の回復も可能に蓄電・発電機器

東京工業大学、東京大学、産業技術総合研究所、山形大学らの研究グループが、全固体電池の性能低下要因の一つを解明。さらに加熱処理だけで低下した性能を大幅に向上させる技術の開発にも成功した。

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 東京工業大学、東京大学、産業技術総合研究所、山形大学らの研究グループは2022年1月7日、全固体電池の固体電解質と電極が形成する界面の抵抗(界面抵抗)が、大気中の水蒸気によって大きく増加し、電池性能を低下させることを発見したと発表した。同時に低下した性能を、加熱処理だけで大幅に向上させる技術の開発にも成功。全固体電池の実用化に大きく貢献する成果だという。

 高速な充電や高い安全性が期待される全固体電池は、現在主流のリチウムイオン電池の代替電池として期待されており、活発な研究が進んでいる。しかし、固体電解質と電極が接する界面における界面抵抗が大きく、充電に要する時間がリチウムイオン電池より長くなることが課題だった。高速充電が求められる電気自動車向けの全固体電池の実用化に向けては、固体電解質や電極材料の開発と並行し、この界面抵抗が増大するメカニズムを解明し、抵抗を減少させる手法を見出すことが重要になる。

 研究グループは、はじめに大気中のどの成分が電極の劣化を引き起こし、界面抵抗増大の要因となるのかを薄膜型の電池で検討した。具体的には、リン酸三リチウム(Li3PO4)固体電解質と、コバルト酸リチウム(LiCoO2)電極の界面を持つ薄膜型全固体電池を作製する際に、電極表面を大気・酸素・窒素・水素・水蒸気の5種類の気体にそれぞれ曝露し、電池性能への影響を調べた。

 その結果、酸素・窒素・水素に曝露させた場合、電池性能の低下は認められなかったが、大気および水蒸気に曝露した場合、界面抵抗が曝露前の10倍以上に増大した。特に、水蒸気に曝露した場合は電極の劣化が非常に激しく、電池性能の著しい低下が観測されたという。

 次に、低下した電池性能を改善する手法の検討・開発を進めた。水蒸気によって劣化した電極を用いて電池を作製し、動作させる前に1時間の加熱処理(150℃)を行うと、電池動作特性が大幅に向上することを発見した。さらに、界面抵抗の大きさを見積もると、10.3Ωcm2を示し、加熱処理前の10分の1以下まで低減させることに成功した。この値は、大気や水蒸気に全く曝露せずに作製した清浄な界面の抵抗値(10.9Ωcm2)と同等の大きさになる。一方で、電池に組み上げる前に加熱した場合では、電池性能は低いままだった。つまり、負極まで形成し、完全に電池となっている状態で加熱することが重要であることが分かった。


作製した全固体薄膜電池の動作特性。(a)電極表面を水蒸気に曝露した電池では、ほとんど電流が流れずに電池反応が起きない。(b)加熱処理を行った電池では、大きな電流ピークが観測されており、良好な電池反応が起きている 出典:産総研

 この加熱処理による電池特性向上のメカニズムについて詳細を明らかにするために、放射光X線による界面数ナノメートルの結晶構造解析や元素組成分析、第一原理計算により、角的に界面のプロトンやリチウムの挙動を評価した。電極表面を水蒸気に曝露すると、電極の結晶構造を乱さずに、電極内部にプロトンが侵入することが分かった。このプロトンが界面Liイオン輸送を阻害することが界面抵抗上昇の原因であると考えられる。しかし、電池を加熱処理することにより、そのプロトンが固体電解質中に自発的に移動し、正常な界面に回復することが明らかになった。


界面におけるイオン移動の様子。下図は界面近傍の正極の様子。(a)LiCoO2正極の表面に水分子が吸着すると、プロトンが正極内部へ拡散する(劣化した状態)。(b)正極の上に固体電解質と負極を接合させた電池構造の状態で加熱処理を行うと、侵入したプロトンが固体電解質中へ脱離し、正常な界面に回復する 出典:産総研

 今回について研究グループは、判明した界面抵抗起源の解明と制御は、全固体電池のより一層の高性能化へ向けた大きな一歩としており、今後さらなる電池特性の向上につながる界面設計指針の構築が期待できるとしている。

 なお、この研究成果は2022年1月6日(米国時間)に米国化学会誌「ACS Applied Materials & Interfaces」に掲載された。

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