人工光合成の効率化へ前進、日産と東工大が太陽光の波長を変える新材料:蓄電・発電機器
東京工業大学と日産自動車らの研究グループが、人工光合成用光触媒の効率化に寄与する高性能なフォトン・アップコンバージョン(UC)の固体材料を開発したと発表。高効率かつ超低閾値でありながら空気中で安定という前例のない固体UC材料であり、次世代の脱炭素技術として期待される人工光合成の効率化に貢献できるという。
東京工業大学は2022年1月11日、日産自動車、出光興産と共同で、人工光合成用光触媒の効率化に寄与する高性能なフォトン・アップコンバージョン(UC)の固体材料を開発したと発表した。高効率かつ超低閾値でありながら空気中で安定という前例のない固体UC材料であり、次世代の脱炭素技術として期待される人工光合成の効率化に貢献んできるという。
人工光合成は太陽光と水とCO2を用い、酸素と水素、有機物などの貯蔵可能なエネルギーを人工的に生成できる技術として盛んな研究が行われている。しかし、実用化に向けた課題の一つとして、太陽光にはさまざまな波長の光が含まれるが、人工光合成に利用できるのは光触媒が吸収できる青色や紫外光に近い短波長の光のみで、長波長の光は利用できないため、効率が高まらないという課題があった。
この解決作として期待されているのが、フォトン・アップコンバージョン材だ。光触媒にフォトン・アップコンバージョン材を組み合わせると、従来利用できなかった長波長の光を利用可能な短波長の光へと変換することが可能となり、水素や樹脂原料などの生産量を高めることができる。しかし、従来のフォトン・アップコンバージョン材は可燃性の液体であることが多く、固体化した場合でも、一般に効率や光照射に対する耐久性が低く、酸素を遮蔽(しゃへい)した環境や、集光した高い強度の光を必要という課題があった。
研究グループは今回、独自に着想した熱力学的に安定な固体相を用いることにより、自然太陽光強度の数分の1という極めて低強度な光であっても、長波長な光(緑色から黄緑色の光)を最大16%の量子効率で幅広い人工光合成で利用できる短波長な光(青色の光)に変換する材料の開発に成功。空気中における長時間の光照射に対しても極めて高い安定性を有することも確認した。
16%という量子効率は、理論上限の約32%に相当し、非常に高い効率だという。これは従来のフォトン・アップコンバージョン材の課題であった、「入射太陽光の集光」が不要になるメリットがあるとしている。
東京工業大学では今後、より高い効率のフォトン・アップコンバージョン材料の開発に向けて、引き続き研究に取り組むとしている。なお、日産自動車では人工光合成で製造した水素と二酸化炭素(CO2)を合成し、自動車部品などへの活用を目指す方針だ。
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