気候変動対策の遅れが経営リスクになる時代――企業はTCFD提言にどう対応すべきか:TCFD提言を契機とした攻めのGX戦略(1)(4/4 ページ)
企業のグリーントランスフォーメーション(GX)に向けた取り組みが注目されている昨今。東証再編に伴うコーポレートガバナンスコードの見直しなども影響し、「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」に沿った適切な情報開示や取り組みの推進がより一層求められつつある。本連載では、こうした企業のTCFD提言を契機としたGXの実現に向けた方策について解説する。
環境・CSR報告書とTCFD提言への対応は何が違うのか?
ここまで、シナリオ分析を中心に具体的なTCFDへの対応案を紹介してきた。
従来の環境報告書やサステナビリティレポート等の開示内容は、当該年度の温室効果ガス排出量や再生可能エネルギー導入量や植林活動など、「過去/現在の取り組み」が中心であったのに対して、TCFD提言に沿った開示では、そこに「未来」の視点も加えることで、より深く企業の持続可能性を分析・評価できる情報の開示を求めているところに特徴があると考えている。
具体的には、
- 気候変動をどの程度経営の重要課題として扱っているのか
- 複数のシナリオに基づき、気候変動の自社へ影響を検討し、リスク要因については適切に管理しながら、一方で新たなビジネス機会としてもしっかりと捉えているか
- 自社に与える財務インパクト(リスク/機会)を定量的に評価しているか
- サプライチェーンを含めた温室効果ガス排出量の現状を把握し、目標については2050年のカーボンニュートラルといったグローバル目標と整合性がとれているか
などの観点で外部評価ができるような情報開示が求められる点が、従来の開示との違いと考えている。
企業としては新たな対応を求められ、負荷が増すのは確かであるが、一方でメリットも大きい。繰り返しではあるが、TCFDに対応することで、気候変動に対するリスクマネジメントがしっかりできている企業であると顧客や取引先にもアピールすることにつながる。また、複数シナリオを用いて気候関連リスク・機会を評価し、自社のリスクマネジメントなどについても熟考を重ね、経営戦略やリスク管理に反映させることは自社のレジリエンス強化にもつながる。
TCFDの波を前向きにとらえ、精緻にやらなければならないと考えすぎず、一歩ずつでもいいのでぜひ多くの企業に取り組んで頂きたいと考えている。
次回は、TCFDを契機に、企業価値向上につなげる取り組みを紹介する予定である。
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