日本の脱炭素目標の実現に「カーボンリサイクル」が欠かせない理由とは?:欧米先進事例から考える日本のカーボンリサイクルの展望(1)(3/3 ページ)
カーボンニュートラルの実現に寄与する次世代技術として注目されている「カーボンリサイクル」。本連載ではこのカーボンリサイクルについて、欧米の先進事例を紹介しながら、日本の現状と今後の課題について解説する。初回の今回は、カーボンリサイクルの概要と、日本のカーボンニュートラル目標達成におけるその重要性について紹介する。
カーボンリサイクルが脱炭素化に与えるインパクト
では、具体的にカーボンリサイクルは、脱炭素化に対してどの程度のインパクトを与えられるかを見てみよう。
カーボンリサイクル技術は、CO2を資源としてさまざまな分野・産業で活用することが可能である(日本でも1980年代からCO2を有機燃料に変えて繰り返し使う技術の開発も始まっている)。特にカーボンリサイクル技術を活用できる代表的な産業として、鉄鋼業、建材やコンクリート・セメントなどの化学工業、道路・土木産業などが挙げられる。
図5に示す通り、2019年の日本産業部門からのエネルギー起源CO2排出量を業種別に見ると、鉄鋼業からのCO2排出が最も多く、全体の4割を占めている。次いで化学工業、機械製造業が続いており、この3業種で全体の排出量の65%を占める。つまり、カーボンリサイクル技術は最もCO2排出量が大きい産業にインパクトを与えることができる。
例えばコンクリート・セメント産業では、全てのエネルギーをグリーン電力・燃料に置き換えてもCO2排出量の削減効果は40%程度と言われており、残り60%を削減するにはカーボンリサイクル技術/CCUSが最も有効な候補となり得る。カーボンニュートラルを目指すうえで、カーボンリサイクルは最後の砦とも言える、欠かせない技術であるといえるだろう。
カーボンリサイクルのさらなる有効活用に必要な視点
今後、脱炭素化に大きく寄与することが期待されるカーボンリサイクルが普及し、さらに脱炭素化へのインパクトを上げていくには、どうすれば良いのだろうか。
現状、カーボンリサイクル技術導入の初期投資コストは高く、投資回収期間が非常に長いという課題がある。つまり、脱炭素全体に、より大きくインパクトを与えていくためには、カーボンリサイクル技術導入の低コスト化を図り、主要産業での大規模導入の実現が必要となる。
この課題解決にあたっては、技術イノベーションだけでなく、革新的なビジネスモデルも非常に重要となる。一企業だけの努力では限界があり、産官学を含めた全体連携が求められる。また、主要産業への大規模導入には、低コスト化の実現のみならず、自治体や政府による支援などの政策、新産業のルールメイキングと新しいエコシステムの形成なども不可欠である。
そこで本連載の第2回以降では、カーボンリサイクル先行国の事例紹介を含め、技術イノベーション、革新的ビジネスモデルとカーボンリサイクルの先行国の関連政策、ルールメイキングとエコシステムなどを紹介したうえで、日本市場におけるカーボンリサイクルの現状と課題、そして今後のビジネス機会を考察していく。
著者プロフィール
株式会社クニエ グローバルストラテジー&ビジネスイノベーション担当 パートナー 胡原 浩(こはら ひろ)
グローバルストラテジー&ビジネスイノベーションリーダー。主に経営・事業戦略、経営企画・改革支援、新規事業戦略、M&A、イノベーション関連等のプロジェクトを担当。 グローバルにおける脱炭素・カーボンニュートラル、エネルギー、EV/モビリティ、蓄電池とハイテク関連の経験豊富。 早稲田大学理工大学院卒業、早稲田大学経営管理研究科(MBA)。
株式会社クニエ グローバルストラテジー&ビジネスイノベーション担当 マネージャー 祁 兵(き へい)
M&Aアドバイザリーブティック、日系コンサルティングファーム、ビッグデータ分析会社を経て現職。製造業を中心に、事業戦略・知的財産戦略の策定、事業拡大・新規事業開拓、M&A、脱炭素の戦略策定・実施等を支援。
株式会社クニエ グローバルストラテジー&ビジネスイノベーション担当 シニアコンサルタント 赫 晨瓏(かく しんろう)
ハイテクメーカー、日系コンサルティングファームを経て現職。電力エネルギー・モビリティ・環境分野を中心に、企業の事業戦略策定やDX・GX推進、海外進出等を支援。
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