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「太陽光パネルの下で農作物が育つのか?」はもう古い、データで見る営農型太陽光発電の現状ソーラーシェアリング入門(62)(1/2 ページ)

ソーラーシェアリングについて解説する本連載。今回は昨今の「不適切な営農」に対する指摘のなかで言及される「太陽光パネルの下で農作物が育つのか?」というテーマについて考えます。

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 営農型太陽光発電を巡る規制議論の中でも、「適切に営農を行っていない事例」がことさらに問題視され、さも「営農型太陽光発電/ソーラーシェアリングにおける農業生産そのものが実は難しいのではないか」という印象を持たれている面が、今なおあります。営農型太陽光発電が制度化されてから10年、今なお続く「太陽光パネルの下で農作物が育つのか?」という変わらない疑問について考えてみましょう。

農林水産省のデータが示す事実

 一時転用許可を受けている営農型太陽光発電において、いわゆる収量8割ルールを満たしていない案件がどの程度あるかを示すものとして、ここしばらく農林水産省から提示されているのが下記の資料です。直近では、2023年7月31日に開催された再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(第53回)で用いられました。


出典:再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(第53回)資料3より

 このデータは「営農に支障のある事例はどの程度か」を明らかにするために使われていますが、特に資料右の円グラフにある「単収減少335件/73%」という数値がことさらに取り上げられ、そのうち「5割超は地域単収の0〜20%未満」という点が注目されがちです。

 しかし、この資料の逆の見方をすれば「収量8割ルールを満たしている事例」がどの程度あるかが見えてきます。営農に支障があるとされる458件のうち、営農者に起因する単収減少が335件でそれ以外の災害や設備工事遅延等が123件です。そして、営農者に起因する単収減少のうち5割超が地域単収の0〜20%未満であり、そもそも営農に取り組む意欲そのものが低い事例と言及されています。

 そうした事例を仮にギリギリ5割超となる168件と仮定した場合、真面目に営農に取り組んでいて収量8割ルールを満たせていない事例は167件となります。従って、営農に取り組む意欲が低い事例と、災害や設備工事遅延等によって営農に支障がある事例を除く2,244件、そのうち2,077件、実に92%の設備では収量8割ルールを満たしているということになります。この点が政策に関する議論の場でほとんど言及されていません。

 このデータから「営農に取り組む意欲のある営農型太陽光発電設備の9割では収量8割ルールが満たされており、基準に届いていないのは1割以下にとどまる」という表現がなされれば、営農型太陽光発電に対する印象は大きく変わるでしょう。そうした言及なしに、「営農型太陽光発電のうち約2割が太陽光パネルの下部農地での営農に支障が発生」と記述するのは、営農型太陽光発電に対する後ろ向きな姿勢を表明していると言わざるを得ません。

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