地政学リスクから考える、日本が水素輸入国となった場合の「安全調達」戦略:「水素社会」に向けた日本の現状と将来展望(3)(3/3 ページ)
「水素社会」の普及・実現に向けた動きが加速する中、企業は今後どのような戦略を取るべきなのか。その示唆となる国内外の情報をお届けする本連載、最終回となる今回はグローバルな地政学リスクを整理し、水素輸入国になると想定される日本での水素の「安定調達」戦略を考察する。
(3)水素需給および地政学リスクの評価結果
ここまで、水素需給から日本の輸入候補国/地域を検討し、調達する際のシーレーンにおける要衝の地政学リスクを確認してきた。その評価結果が図4である。
北米、南米、オーストラリアは水素需給、地政学リスクどちらの観点でも高評価となり、次点でアフリカと中東、最後に東南アジアという結果になった。東南アジアについては、台湾有事の際のリスクに加えて、今後の水素需給が不明瞭なことが今回の評価につながった。
近年、ウクライナ問題、ミャンマーでのクーデターや中東の軍事リスクなど、地政学リスクが顕在化した例が増えていることから、水素ビジネスを展開する上でも、地政学リスクや有事に対し、速やかに対応できるグローバルサプライチェーンの構築は今後より一層重要となるだろう。
おわりに
計3回の連載を通して、水素ビジネスのグローバルでの動向や諸外国の先進事例を紹介することで他国から得られる示唆や、日本の水素輸入ルートに対する地政学リスクについて解説してきた。水素はカーボンニュートラルを達成するためのソリューションとして多くの分野で期待されていると同時にエネルギー安全保障に関わる。
したがって、諸外国の先進事例などから学び、輸入ルートにおける地政学リスクを把握し輸入国/地域の分散を図ることで、水素の安定調達につながり、ひいては企業価値の向上に貢献するだろう。本稿がその一助になれば幸甚である。
著者プロフィール
株式会社クニエ グローバルストラテジー&ビジネスイノベーション担当 パートナー 胡原 浩(こはら ひろ)
グローバルストラテジー&ビジネスイノベーションリーダー。主に経営・事業戦略、経営企画・改革支援、新規事業戦略、M&A、イノベーション関連等のプロジェクトを担当。 グローバルにおける脱炭素・カーボンニュートラル、エネルギー、EV/モビリティ、蓄電池とハイテク関連の経験豊富。 早稲田大学理工大学院卒業、早稲田大学経営管理研究科(MBA)。
株式会社クニエ グローバルストラテジー&ビジネスイノベーション担当 シニアコンサルタント 岩本 遼(いわもと りょう)
石油元売り、総合化学メーカーを経て現職。エネルギー・環境分野を中心に、企業の事業戦略策定や新規事業構築、GX・DX推進などを支援。
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