「COP28」は“進展なし”だったのか? 今後の日本に求められる姿勢を考える:「COP28」を通じて考える気候危機への取り組み(後編)(2/2 ページ)
2023年11月末に開催された「COP28」。「具体的な進展は何も見られなかった」と評されることも多いCOP28だが、その中身は一体どのようなものだったのか。本稿ではこのCOP28の内容を振り返るとともに、日本がとるべき今後のアクションについて考察する。
資金拠出の次に求められる「具体的かつ直接的な行動」
資金拠出の仕組みは動き始めた。では、具体的で直接的な行動はどうだろうか。2024年1月11日、国際エネルギー機関(IEA)が発表した年次報告書によると、2023年の再エネ導入の急増により、現状の各国政策と市場条件が続けば2030年に2022年の2.5倍になる見込みであり、再エネを2030年までに世界全体で現状の3倍にするというCOP28で定めた目標に手が届きそうなところまで来ているという。
中でも再エネの拡大に最も貢献したのは中国で、2022年に世界全体が稼働させたのと同量の太陽光発電を、中国は2023年の1年間で導入したということだ。同報告書は、2030年の世界目標の3倍を達成するには、低所得国に対する支援等さらなる対応が必要であるとし、世界でより一層の直接的な行動の強化を求めている。
そのような中、現時点で日本政府は日本単独で2030年に再エネを現状の3倍にする意欲は見せておらず、また国際的に廃止論の強い石炭火力発電についても継続するとしている。なぜなのだろうか。その理由を財政のせいにはできない。新型コロナウイルス感染症対策の予算は2020年度だけでも77兆円だったと言われており、産官学の利害が一致すると、危機に際して合法的にこれだけの規模の国家予算が組める国であることを図らずも国内外に示した。
その一方、2024年度のGX推進対策費の予算要求を見ると1.9兆円の規模となっている。確かにウイルスと異なり、気候変動は今のところ明日の命を脅かすものでは無く、日本は他国と比べて相対的に脆弱とは言えない。またワクチンのように分かりやすい「解決策」もない。だが、だからといって世界の目標達成に積極的に取り組まないのは疑問がある。他にも関連予算もあり、金額だけがすべてではないが、文字通りコロナ対策とけた違いの予算規模に国際社会はやる気がないと見るのではないだろうか。
COP28の目標は全ての国に一律に達成を求めるものではなく、あくまで世界全体の総和に対する目標であり、国ごとの事情が柔軟に考慮されるという建て付けになっている。それにより、COP28が具体的で直接的な行動に結びつきづらいという課題があるが、ここ日本でもそれが顕著になっていると言える。
本来COPは各国の具体的で直接的な行動に規律を与えるべきと筆者は考えているが、そのようには必ずしもなっていない。だが、国際枠組み以上に、ビジネス環境からの影響力が規律ある行動を求めており、欧州などグローバルのビジネス環境においては、脱炭素に取り組んでいない日本のプレイヤーがつまはじきにされる状況が既に訪れている。気候変動対策のための取り組みは、COP28の目標達成のために行うものではなく、目先では日本企業のグローバルビジネスを守るため、そしてもちろん究極的には地球を持続可能にするために自律的に取り組むことが求められる。
おわりに
日本は、テクノロジー、政策(カーボンプライシングを含む)、法規制、テクノロジーとイノベーション、市民への啓発等においてイノベーションを刺激するために、相当な努力を払う必要がある。万能な解決策も無く、日本単独で目標を達成することは難しいだろう。だからこそ日本は、志を同じくする国々と強力なパートナーシップを築き、専門知識や経験を共有し、ともに努力することが非常に重要になると筆者は考える。
気候変動対策でも米国との協力関係は重要だが、この分野において米国は政治的な変化(保守政党の強い反対、化石燃料産業の強い影響力)の影響を非常に受けやすく、具体的で直接的な行動を共にしづらい面は否定できない。そこで、野心的な目標を掲げ、再エネ等での先駆的な政策および規制の枠組みを持つEUとの協力強化の可能性にも強い注意を向けるべきだと筆者は考えている。
2021年に締結された日EUグリーン・アライアンスによって、日本およびEUは、エネルギー移行、環境保護、規制とビジネス協力、研究開発、持続可能な金融、第三国における移行の促進についての協力関係を深化している。さらなる協力関係の深化により、気候変動対策のための具体的で直接的な行動が促進されることを強く期待している。
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