下水処理の再エネ利用&汚泥処理の問題を解決する新技術、日立造船と産総研が実証へ:自然エネルギー
日立造船と産総研が共同研究中の下水汚泥ガス化技術の実証へ。実用化できれば消化汚泥の処理が不要になるとともに、汚泥由来の燃料ガスを発電に利用し、得られる電力を下水処理場に自給することで下水処理のグリーン化が可能になる。
日立造船と産業技術総合研究所(産総研)は2024年7月19日、共同研究中の下水汚泥ガス化技術に関し、鹿児島市南部処理場においてフィールド試験を実施することを決定したと発表した。
全国の下水処理場では、水処理工程における曝気(ばっき)装置などで多くの電力が消費されている。一方、下水処理場では乾燥した約230万トンの下水汚泥が発生しているが、エネルギーとしての利用率は約26%に留まっている。また、汚泥が微生物の働きによって分解される消化工程で発生する消化ガスの利用は広く普及しているが、消化汚泥の処理などが課題の一つとなっている。
こうした課題に対し、日立造船と産総研では2020年3月から、消化処理を経ることなく下水汚泥を直接ガス化して水素などを主成分とする燃料ガスに転換する新型・ガス化改質システムの共同研究を進めてきた。
これまでにも下水汚泥の直接ガス化によるエネルギー回収技術の開発が行われてきたが、副生するタールが配管に付着して閉塞することによる、タール排出抑制が課題だった。そこで両者は新型・ガス化改質システムとして、タール改質機能を有する安価な天然鉱石を媒体として使用する独自の循環流動床装置を開発。既に連続した安定運転を実現するなど、2023年3月までに要素技術を確立した。
今回この技術の実用化に向けて、鹿児島市から脱水汚泥試料および下水処理場フィールドの提供を受け、2トン(湿潤基準)/日規模のパイロットプラントを同市南部処理場に設置し、2024年10月から2026年3月までフィールド試験を実施する。試験では得られた燃料ガスの電力利用を主な目的として、ガスエンジンによる下水汚泥ガス化発電プロセスに関するトータルシステムの検証を行う。
このシステムを実用化できれば、消化汚泥の処理が不要になるとともに、汚泥由来の燃料ガスを発電に利用し、得られる電力を下水処理場に自給することで下水処理のグリーン化が可能になる。両者は今後、将来的な水素社会の到来や、素材としてのケミカルリサイクル利用を見据えて、鹿児島市周辺における地域ニーズや時代にマッチした燃料ガス利用方法の調査など、サーキュラーエコノミー実現に向けた取り組みを進めるとしている。
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