再エネ時代の巨大バッテリー「揚水発電」の現在地――東芝が進めるAI活用と事業展望(3/3 ページ)
太陽光や風力の出力変動に対応する調整力として、揚水発電が再評価されている。原子力のための「影の存在」から、再エネのための「巨大バッテリー」へ──。東芝の取り組みを通して、揚水発電のこれからを展望する。
国内リプレース市場が本格化──問われる技術力
国内で稼働中の揚水発電所は、1960〜1990年代に建設されたものであり、設備の老朽化対策や、制御システムの高度化、さらには可変速化などの性能向上が課題となっている。一方で、新設には地形・環境的な制約が大きく、長期の許認可手続きも伴うため、国内市場の主流は、既存設備のリプレースやリニューアルに移行するとみられている。
こうした状況にあって、長年にわたり水車・発電機の設計・製造・据付・保守を行ってきた東芝の技術力への期待は大きい。可変速技術の後付け適用、非接触センサーやAI診断によるメンテナンス最適化、水車や発電機の高効率化など、改修にあたって求められる高度な知見と実績を有する点は、同社ならではの強みだという。
世界市場へ──中国・東南アジアで高まる新設需要
一方で、海外市場、とくに中国や東南アジア諸国では、揚水発電の新設ニーズが依然として高い。再生可能エネルギーの大量導入にともなう出力変動への対応手段として、調整力を持つ揚水発電への期待が急速に高まっているためだ。中国では、2030年までに1億kW超の揚水発電容量を目指す国家計画が打ち出されており、大型案件が次々と立ち上がっている。インド、ベトナム、インドネシアといった国々でも、電力需要の急増と再エネ導入の加速を背景に、同様の動きが見られる。
こうした成長市場に対し、東芝は高効率な可変速揚水発電システムの納入実績や、大容量設備における設計・据付ノウハウを武器に、積極的に展開している。すでに中国には2005年に水力発電機器の製造販売拠点を設立しており、2025年3月には東芝水電設備有限公司(杭州)の新工場も立ち上げた。
加えて、今後の海外展開においては、発電機や水車単体での提供にとどまらず、IoTやAIを活用したスマート保守や、ライフサイクル全体を支えるソリューション型の事業モデルへの転換も進んでいる。
世界的に広がる再エネ大量導入という社会構造の変化の中で、かつてのインフラが新たな役割を帯びて蘇る──揚水発電はまさにその象徴だ。しかし、その価値を最大限に引き出すには、技術革新と運用最適化の両輪が不可欠となる。東芝ではその両輪を成立させる統合ソリューションとして、今後も「可変速×AI×ロボット」を組み合わせた事業展開を推進する方針だ。
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