追加投資なしでダム発電量を14%向上 日立と長野県がシミュレーションで成果:自然エネルギー
日立製作所は2025年9月17日、長野県と協力し、独自のシミュレーションを活用して、ダム発電量を向上させる運用方法を導出したと発表した。
日立製作所は2025年9月17日、長野県と協力し、独自のシミュレーションを活用して、ダム発電量を向上させる運用方法を導出したと発表した。長野県が管理する裾花ダム・裾花発電所(長野県長野市)の25年分のデータを活用した結果、追加の設備投資を行わない場合でも、年間発電量を平均14%向上できる可能性があるという。
裾花発電所は1969年5月から運用を開始。立軸フランシス水車と最大有効落差98.35メートルを利用する最大出力1万5500kWのダム式発電所だ。今回の取り組みでは、日立製作所のダム運用支援ソリューション「DioVISTA/Dams」を用いて、理論上の最大発電量を求めた。具体的には、流入量が誤差なく予測できると仮定して、ダムの制限水位や操作規則、放流条件を考慮しながら、発電量・放流量・水位の観点で最適な放流計画を2000〜2024年の過去25年分について1年ごとに作成した。
その結果、現在の操作規則に従った場合、発電量の理論値は平均して年間6万3450MWh(洪水期1万5475MWh、非洪水期4万7794MWh)となった。これは、過去25年分の実績平均よりも19%多い値(1万97MWhの増加)となり、裾花ダムには発電量増加の余地があることが分かった。
次に実運用においてもダムの発電量を最大化するために、ダム運用の現状分析、シミュレーション、課題の抽出を通じて、最適な運用方法の提示までを行う日立の独自手法により、ダムへの流入量予測を使わない最適なダム運用方法を確立した。具体的には、流入量を誤差なく予測することは困難であることから、流入量予測を用いず、目標水位を超えた際に放流し発電する「三水位モデル」をダム操作条件に採用。同モデルで過去25年のデータを基に「DioVISTA/Dams」で検証したところ、年間発電量は平均6万1059MWhと、実績比14%増(約7706MWh)であることを確認したという。
この値は当初算出した理論上の最大発電量6万3450MWhに近く、予測流入量を使わない「三水位モデル」でも、理想に近い発電量を達成できる可能性があることが示さた。なお、これらの放流計画案および発電量の算出では、ダムの実際の操作規則・操作細則、ダムの水位・容量曲線、発電機の力特性などを考慮している。
長野県は「2050年ゼロカーボン戦略」で掲げた目標の実現に向け、再生可能エネルギーの供給拡大に取り組んでいる。今回の検証では、追加の設備投資を行わない場合でも水力発電量の増加が可能であることが示されており、長野県はその費用対効果の高さに着目。検証結果を踏まえ、今後、導き出したダム運用の実用化に向けて、ダムの運転管理を担う建設部と協議を進めていく方針だという。
また、日立製作所ではこのソリューションをベースに、AIなどのテクノロジーを組み合わせ、各ダムの特性に応じた運用方法の提案を進める方針だ。
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