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太陽光発電のケーブル盗難問題は新フェーズに──被害状況と深刻化する保険問題の最新動向太陽光発電協会(JPEA)に聞く(1/3 ページ)

太陽光発電事業に大きな被害を与えているケーブル盗難の問題。足元の盗難被害の最新動向や、事業者が取るべき対策のポイントについて、太陽光発電協会(JPEA)シニアアドバイザー・政策推進担当の杉本完蔵氏に話を聞いた。

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 全国の太陽光発電所で相次ぐ銅線ケーブル盗難。高騰する銅価格を背景に、組織的な犯行グループが暗躍し、太陽光発電事業の継続性をおびやかしている。こうした状況を受け、2025年6月には金属盗対策法が成立。被害の低減に向けた法制度の整備も進んできたが、事業者にとってケーブル盗難の問題は、今後の事業運営を考える上で引き続き大きなテーマの一つだ。

 こうした中で、ケーブル盗難の問題はいまどのような状況にあり、どういった課題が残されているのか。また、事業者が取るべき対策のポイントについて、太陽光発電協会(JPEA)シニアアドバイザー・政策推進担当の杉本完蔵氏に聞いた。


太陽光発電協会(JPEA)シニアアドバイザー・政策推進担当の杉本完蔵氏

止まらぬ盗難と“保険崩壊”の現実

──ケーブル盗難の現状と課題について教えてください。

杉本氏 日本損害保険協会によれば、盗難に対して支払う保険金額は、2022年度には2017年度比で約20倍に増えました。警察庁による金属盗の認知数は、統計をとり始めた2020年から2024年にかけて5倍となり、その勢いが衰えることはありませんでした。

 しかし、2025年になって件数自体は減りはじめています。取り締まりが強化されるとともに、事業者自身が防犯意識を高め、さまざまな対策を講じてきた成果といえるでしょう。

 ただし、「盗難件数が減った=安心」ではありません。被害が減っても、“保険”が以前の状態に戻らないという大きな問題が残っています。それどころか、発電事業者にとって、保険加入条件はますます厳しいものになってきています。

 保険会社から見れば、盗難リスクは依然として高く、支払い保険金が想定を大きく上回る状況が続いています。多発する自然災害もあいまって、太陽光発電は「リスクの高い案件」と見なされ、多くの保険会社がいま、太陽光発電に対する審査基準を厳しくする方向に動いているのです。太陽光発電業界にとって、この保険問題こそが、現時点での最大の課題ともなっています。


ケーブル盗難の損害保険への影響 出典:経済産業省/第68回再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会における「あいおいニッセイ同和損害保険株式会社」の発表資料より

──ケーブル盗難がもたらす発電事業への影響は深刻ですね。

杉本氏 はい。単にケーブルを盗まれるだけでなく、防犯設備やフェンスや機器の毀損、パワーコンディショナーや分電盤・遮断機・キュービクルの損傷など、被害は多岐にわたります。そして、ケーブル張替えや機器の取り換え、回復工事などには多くの期間を要します。電力会社の再接続までに3カ月以上かかるケースも珍しくありません。

 復旧までの期間は発電停止となりますから、当然、売電収入も途絶えることになります。もちろん、損失を保険で賄えればよいのですが、ケーブル盗難が補償対象外となっていたり、そもそも保険に加入できないケースも出てきており、深刻度は増すばかりです。

 大規模な発電所では損害額も大きく、補償上限が設定されているケースが一般的です。また、低圧発電所など小規模な案件では、そもそもの免責額が大きすぎて、実質的に保険が下りないということもあります。さらに、一度盗難にあうと「保険料が大幅値上げになり、免責範囲も見直し」され、自己負担が大きくなるだけでなく、最近では保険が不担保になる事例も発生しています。こうした経済的な損失により、発電所の運営を断念せざるを得なくなる事業者も出てきています。

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