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2004/05/18 00:00 更新

ITソリューションフロンティア:視点
能力としてのコミュニケーション


 毎年、4月になると通勤電車が混むような気がする。新入生、新入社員が新たに乗ってくるせいだろうか。駅や車内で、真新しい学生服を着た新入生や、まだ体になじまないスーツを着た新社会人を見ると、新年度を迎えたという新鮮な気持ちになる。

 ところで、いつも利用している通勤電車の携帯電話に関する車内放送が変わった。以前は「車内での携帯電話のご利用は他のお客様の迷惑になりますのでお控え下さい」と言っていたようだが、現在は「車内では優先席の付近では携帯電話の電源をお切り下さい。その他ではマナーモードに設定の上通話はお控え下さい」と言うようになってきている。そのせいかどうかわからないが、最近、電車では携帯電話で会話をしている人の数がめっきり減ったようである。その代わりに、画面をじっと見ている人、片手で一所懸命に(器用に)文字を打ち込む人がいかに増えたことか。耳障りな話し声に悩まされることが少なくなったのは助かるが、多くの人が携帯電話とにらめっこしている光景は奇異な感じがする。

 私自身の場合も、以前は、緊急の電話がかかってきて、周りの人を気にしながらこちらからは極力しゃべらず、おもに相手の話を聞いているだけということが多かったが、最近はメールの連絡が増えてきた。携帯電話の使い方として、音声通話よりメールのほうを多く利用するという人が増えているようで、メールの送受信の伸びが音声通話の伸びをかなり上回っているそうである。

 今年大学に入学したわが家の娘も、携帯電話はもっぱらメールのやり取りに利用しており、電話としてはほとんど使っていないようである。電話という本来の機能を知らずに、メールだけを使っていた大学生もいたという、信じられないような話を新聞で読んだような気がする。

 携帯メールの特徴として、感情を表現するための絵文字や顔文字、話し言葉そのままの短いフレーズなどがあげられる。これらは、通常の書き言葉に比べてパーソナルな感情をストレートに伝えられると考えられているようである。携帯メールは、PCを使った電子メールによるコミュニケーションに比べて、パーソナルな感情表現に適した身近なツールとなっている。

 PCに限らず、携帯電話やデジタル家電など、あらゆる端末がネットワークにつながるユビキタスネットワーク化が進行中である。コミュニケーションの手段が多様化し、容易になり、常時どこかとつながっている状況になりつつある。しかし、メールが来たら間をおかずに返信することが習慣となり、深く考えることもなくコミュニケーションを行うことに慣れ親しんでしまうと、論理的に物事を考えること、そして長い文章を書くことがおろそかになりがちである。そのことが、中身のある論理的なコミュニケーションができない人間が増えているひとつの要因ではないだろうか。

 最近の新入社員は、人見知りをする一方で、親しくなれば何でも話すといった人間が増えているようである。そこには人と人のコミュニケーション、とくに実社会でのコミュニケーションの苦手意識があると思われる。新しいコミュニケーション手段の出現により、コミュニケーションのあり方も昔とは異なっていることは事実としても、本質的なところで、しっかりとしたコミュニケーション能力が欠如してきているように思われる。

 極端に言えば、インターネット、携帯メールなどコミュニケーションの道具の発達は、かえって人と人を遠ざけているような気がする。ユビキタスネットワーク社会は、気をつけないと人と人のコミュニケーションを希薄にし、コミュニケーション能力の低下をもたらすおそれもある。

 日本経団連が昨年11月に企業を対象に実施した新卒者採用に関するアンケートによると、企業が採用選考時に重視する項目の第1位はコミュニケーション能力ということである。第2位はチャレンジ精神で、以下順に、主体性、協調性、誠実性、責任感、潜在的可能性、創造性、論理性、リーダーシップとなっている。その前年度は第1位がチャレンジ精神、第2位がコミュニケーション能力であったから、それが逆転したわけである。

 これらの項目をみて気づくのは、コミュニケーション能力以外は本人のやる気など情意に関するもの、性格や資質といったものであるが、コミュニケーション能力はまさに実際的な能力だということである。アンケート結果は、いまの学生のコミュニケーション能力の不足に対して、採用側がいかに問題意識をもっているかの証であろう。

 ビジネスの世界では、いまや電子メールのやり取りが普通になってきている。それにともなって、対人コミュニケーション能力の不足がこれまでも問題としてとり上げられてきた。携帯電話のメール利用の急増で、ビジネス社会でのコミュニケーションを円滑にできない人間がますます多くなっていくことが危惧される。

 コミュニケーション能力不足の原因が、携帯電話などの新しいツールの発達にあると決めつけるのは早計に違いない。しかし、電車の中の若者たちのようにパーソナルなコミュニケーションにばかり熱中していれば、言いたいことを順序立てて整理し、効果的に伝えるための工夫などはおろそかになってしまう。そうならないために、携帯電話のような便利な道具に頼りすぎる危険も意識する必要がある。そんなことを考えてみるために、1日ぐらい、試しに携帯電話を持たずに過ごしてみるのもいいかもしれない。

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▼OPINION:野村総合研究所

[永田滋範,野村総合研究所]

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