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コラム

中国で見直した小売業のシステムモデルITソリューションフロンティア:海外便り

文化や国民性の違いがその国の情報システムの特徴を作り出すということは、疑う余地のない事実である。そこで大切なのは、どちらが優れているかを決めることではなく、お互いに相手のどこが優れているかを客観的に見極めることであろう。本稿では、中国で小売業のシステム開発に携わる立場から、あらためて小売業システムの理想モデルについて考えてみる。

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なぜ日本は人工衛星打ち上げに失敗するか

 中国の友人がこんな話をしていた。中国は人工衛星の打ち上げに成功するのに、なぜ日本はうまくいかないのか、彼が仲間と議論した時のこと、日本人は細かいことにこだわりすぎて大局的にものを見る力が弱いのではないかという結論に達したという。人工衛星の技術に関しては、米国・ロシアと中国が群を抜いていることは衆知の事実なので、何とも反論できない。

 筆者が初めて中国の人たちと仕事をして思ったことは、なぜ彼らは詰めが甘いのだろうかということだった。しかしそれはほんの一面に過ぎなかった。大勢に影響しない細かいことはほどほどに処理することが重要なのかもしれない。

体系化が苦手な日本人

 他の分野でも同様のことが言える。ソフトウェア、ハードウェアのアーキテクチャー設計技術では、米国がつねに優位を保っている。日本でも独自アーキテクチャーを模索した時代があったが、μITRON(組み込みシステム用の基本ソフトのひとつ)のように組み込み技術の世界で成功しているものなどを除いて、ほとんどのものは世界標準とはならず消え去っていったように思える。

 BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)という名の業務改革の方法論にしても、もともと日本でふつうに実践していた業務改善の方法が、米国で「BPR」という名で体系化され世界的に有名になったのだと言う人もいる。しかし、すでにBPRは米国産だと思われている。

 総じて、日本人は体系化が苦手な人種であるように思える。

小売業システムの体系的モデルとは

 大局的にものを見るということは、言い換えると全体の系で考える、全体アーキテクチャーを見通して考えるというようなことだと思う。それでは、筆者の専門とする小売業のシステムは、こうしたとらえ方からはどのようにモデル化できるであろうか。中国を含めたアジアの小売業の、とくにスーパーマーケット、コンビニエンスストアの統合システムで、何が本当に理想のモデルなのかを考えてみよう。

 業務指向のシステムとは、業務遂行において「誰が、どこで、何を、どのように、なぜそうするのか」ということを中心に考えて作られた仕組みのことである。

 販売行為の拠点は店舗である。店舗では、消費者が何を求めているのかを見極めて、人件費、家賃などのコストを上回る利益を出す努力を絶えず繰り返す。本部側では、店舗全体の売上、粗利の状況をみて、さらに地域特性を考えながら、その地域に住む消費者がどのような購買傾向をもち、何を欲しているかを科学的に導き出す。そして各地域の店舗に理解しやすい情報に加工して伝える。

 では、上記の店舗や本部の業務を支援する仕組みとは具体的にどのようなものになるだろうか。簡単に言ってしまうと、店舗にとっての仕組み(店舗システム)とは、意思決定を支援するために必要な情報をわかりやすい形で提供するものであり、それによって引き起こされるアクションをスムーズに実施させるものである。必要な情報を、必要な時に、必要なだけ手に入れることができ、それを元に自分の頭を使ってどのような商品を用意するかを判断し、商品を発注する。また本部側の仕組み(本部システム)の役割は、個々の店舗の情報が集まるメリットを活かし、ある程度の広い範囲の地域の販売傾向を把握し、個々の店舗に役立つ情報をフィードバックしていくことであり、さらにさまざまな情報を組み合わせて新規商品を開拓していくことである。

 店舗システムから本部システムへ上がっていく発注データは、本部システムへ蓄積されるとともに、ベンダーへと伝わっていく。また、発注データは全体の需要がどのくらいあるのかを把握するためにも使用される。店舗には、店舗固有のデータを閲覧することが必要であり、本部側は、店舗のデータを集めた集合体としてのデータの閲覧が必要となる。

 情報に関しては、戦略立案を行う本部で取捨選択して溜め込み、商品部が必要な商品情報をさらに取捨選択して使える情報に加工し、店舗へ流していく。この仕組みは水の供給に似ている。ダム(本部)で水を溜め込み、浄水場(商品部)できれいにし、家庭では必要な時に蛇口(店舗のPC)をひねると、水が必要なだけ出てくる。

 店舗側では、情報は必要かつ十分なデータを利用するのが理想的である。必要かつ十分なデータとは、店舗の戦略を決定するための核となる「力学」に関するデータではないだろうか。すなわち、どういう外部情報(外力)があると、何が、どのように動き、その結果どうなるのかを知るためのデータである。

シンプルなモデルを基礎に置く

 以上が、大きくしかも単純にとらえた小売業のシステムモデルである。小売業のビジネスを、適切な投資によって作り出した仕組みでうまく動かしていくためには、このようなシンプルで自然なモデルを土台に据える必要があるように思える。

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