仮にソフトバンクにLINEを運営させようとしているのなら、筆者はこれまで「日本人の生活を支える通信インフラのLINEは国産にすべきだ」と言ってきたが、それに近づく。
さもないと、個人データを盗まれるだけでは済まない。サイバー攻撃というのは、攻撃するための方法は基本的に同じである。ターゲットのコンピュータやシステムにマルウェア(ウイルスなどの不正なプログラム)などを仕掛けて入り込み、情報を盗んだり、別のマルウェアを仕掛けたり、内部の情報を暗号化して使えなくしたり、内部データを全て消し去って破壊してしまったりできる。
つまり、金銭目的のサイバー犯罪者も、破壊が目的のサイバー攻撃者も、システムに潜入して初めて、攻撃ができる。入る手法は同じで、入ってしまえば、あとはそれぞれの目的を達成するために動く。
LINEは中国側から侵入されたことがある。もしこのままセキュリティについて、これまで通りおざなりな動きが続くようなら、また侵入されるだろう。これが有事であれば、個人データを盗まれるだけでなく、日本人の8割が使うLINEが一気に遮断されて機能しなくなることも考えられる。
では、5月8日の決算説明会で発表された代表取締役の退任などで、LINEの状況は変わるのか。残念ながら「ノー」と言わざるを得ない。前出の韓国のネイバー関係者は「今回の発表でネイバーとの関係を断つかのような姿勢を見せようとしているが、実際には、これからもLINEの開発部門は、ネイバーが人事権を持つLINEヤフーの100%子会社を通してネイバーが関わることになる。つまり、引き続き韓国がLINEに深く関わるので、何も変わらないでしょう」と話す。
やはり日本政府は、米国政府に倣って、LINEに対して厳しい対応をすべきではないだろうか。
山田敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
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