公務員65歳定年制の導入は「若者の賃金搾取」と「解雇規制緩和」の序章だ:美名のもとに遂行される「政府シナリオ」(1/5 ページ)
政府は公務員の定年引き上げを検討している。この動きが民間にまで波及すれば法定定年年齢の65歳への引き上げにつながり、70歳までの雇用確保を義務付けるという「政府のシナリオ」が現実味を帯びつつあるのだ。その先にあるのは……。
安倍晋三首相が10月24日の所信表明演説で「生涯現役社会を目指し、65歳以上への継続雇用の引き上げや中途採用・キャリア採用の拡大など雇用制度改革に向けた検討を進めます」と発言した。
政府が高齢者の雇用を促進するのは、人手不足の緩和による経済の活性化と公的年金などの社会保障財政の安定化を狙ったものだ。安倍首相が議長を務める「未来投資会議」では、65歳までの雇用確保措置を義務付けた高年齢者雇用安定法の継続雇用年齢を70歳に引き上げる法改正の検討も始まっている。2019年の夏までに実行計画を策定し、20年の法改正を目指しているのだ。
また高齢者の雇用と密接な関係にある公的年金については、18年4月に財務省の財政制度審議会で公的年金の支給開始年齢を65歳以上に引き上げる案が浮上し、話題になった。慌てた厚生労働省は65歳の支給開始年齢は引き上げない方針を示しているが、今後どうなるかは分からない。
社会保障に詳しい自民党で大臣も経験した国会議員は「すでに欧米では公的年金支給の70歳近くまでの引き上げに着手している。年金財政を考えると事情は日本も同じだ。最初は70歳への引き上げを提起し、世論の反応を踏まえると、落としどころは68歳だろう」と語る。
「人生100年時代」の美名のもとに遂行されるシナリオ
政府は「人生100年時代」を提唱し、少なくとも誰もが70歳まで働く「70歳現役社会」を目指している。おそらく次のステップは70歳までの雇用を見据えた法定定年年齢の65歳への延長だろう。政府も65歳定年制の導入を民間企業に推奨しているが、ほとんどの企業が選択しているのは定年後に契約を1年ごとに更新する再雇用制度だ。
定年年齢が60歳の企業が約8割を占める。そして、定年年齢が65歳以上の企業は17.0%であり、定年のない企業と合わせても2割にも満たない(厚生労働省「平成29年高年齢者の雇用状況」)。
実は民間企業の65歳定年制導入に向けた政府のもう一つの動きが、公務員の65歳定年制の導入だ。人事院は今年8月10日、国会と内閣に対し「定年を段階的に65歳に引き上げるための国家公務員法等の改正についての意見の申出」を行った。人事院は11年にも定年を段階的に65歳に引き上げることが適当とする意見の申出を行っている。だが、当時は公務員だけ一気に定年を引き上げることに対する世論の批判もあり、政府もそれに配慮し、公務員も定年延長ではなく、民間と同じ「再任用」で対応することにした。
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