写真家・五味彬さんによる作品集「Yellows」は、米Kodak(コダック)によって開発されたデジタルカメラで1992年に撮影された、たぶん世界でも最も早い時期に作られたデジタルカメラによる作品集だ。カシオの「QV-10」の発売が95年だから、相当早い。
五味彬によるオリジナル「Yellows」より、「中村沙弥」。モデル一人に対し、このような顔のアップ、服を着た全身、全裸の全身の正面、横向き、後ろ向きなどの写真を同じ背景、同じライティングで撮った、人体標本的な作品集だった(画像提供:五味彬さん、以下同)その五味さんは現在、生成AIを駆使した作品「Yellows AI」の作品展などを行っている。デジタルと写真の最前線を走り続けた彼による、デジタル写真の最先端が生成AIだとするなら、その捉え方、作品制作に関する写真家の技術や考え方の変化を知った上で、「Yellows AI」やその他の現在の五味彬作品を見直すことは、今必要なのではないかと思うのだ。
「江並さん(当時、プロペラ・アート・ワークスの故江並直美氏)が、コダックが開発したデジタルカメラとプリンターを使って作品を作ってくれないかと言ってきたんです。1992年ですね。バルセロナ・オリンピックに、その機械をコダックが提供したんですが、誰も使ってくれなかったとコダックの人が言っていたんです。ぼくは新しいものが好きなので値段を聞いたら、カメラが350万円でプリンターが400万円。でも、それだけでは使えない。Macが要るって言うんです。で、江並さんに見繕ってもらって、それ(Macと周辺機器)が200万。全部で約1000万。どうにか購入して作ったのが『Yellows』でした」と、五味さんは当時を振り返る。
デジタルだからやれることを考えた結果、ラボ(現像所)を通さないため自由にヌードが撮れるのではないかということ、機材の自由度が少ないので部屋での撮影のみなど、デジタルだから可能な自由度と、当時のデジカメだからこその制約を、どちらも強みにして作られたのが最初の「Yellows」だったそうだ。
「センサーは30万画素くらい、Rawでしか撮れないから、それをMacの専用ソフトで現像して、400万円のプリンターで出力したものを印刷所で複写製版して、本にしたんです。だから画質的にはきれいにピチッと出るんですけど、プリンターの出力はそんなにいいものじゃなくて、色がおかしいしメリハリもない。それも面白さになるように作って、それはそれで良かったんだけど、次はデータを直接印刷所に入れようという話になったんです」
そうして当時、誰もやっていなかったデータ入稿による写真集「Americans 1.0 1994 LosAngeles」(風雅書房)ができあがる。ただ、「Americans」に関しては、デジカメは機材が大き過ぎて、アメリカに持っていくことができず、普通のフィルムカメラで撮ったものをスキャンして、データ入稿という形を取った。
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