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奇抜なヌードも「AIでしょ」で終わり──’90年代に「Yellows」でデジタルの可能性を示した写真家が生成AIを駆使する現実的な理由分かりにくいけれど面白いモノたち(3/5 ページ)

» 2025年04月30日 12時05分 公開
[納富廉邦ITmedia]

生成AIとの共同作業で写真はどう変わる?

「2022年に『Stable Diffusion』が公開されて、色々いじってみたけど、プロンプトだけだとあんまりいい感じにならなくて、自分の写真を入れてイメージを作らせたりしていたんです。そうやって、1年くらい、AIってどんなものかを探る作業をずっとやってました。その実験の一環で、例えば、黒人の坊主の女の子にミニスカートを履かせた画像を大量に生成させたりしていました」

 五味さんによると、生成AIの面白さは、一つにはバリエーションをいくらでも作ってくれることだという。

「デザイナーって、いくつもバリエーションを作って、そこから絞り込むじゃないですか。そこをAIは代わりにやってくれる。それで、『バリエーター』ってアプリを作ろうと思ったんですよ。ひな形を一つ作ったら、自動的にバリエーションを作ってくれるソフトウェアで一儲けしようと思って、ボイジャーに企画を持っていったんだけど、あまり売れそうにない上に、初期投資分が出せないということで没になってしまって」と五味さん。

試作版「バリエーター」による作品。こんな風に、一つのひな形からいくつものバリエーションを生成するというソフトウェアだった。

 そして、もう一つの生成AIの良さは、実際には撮影が難しいモチーフを扱えることだと五味さん。

「ぼくがフランスにいた時に師事していたカメラマンの奥さんが、VOGUE(ヴォーグ誌)でスタイリストをやっていて、その方に聞いた、写真家ギイ・ブルタン(フランスの著名写真家)の話があるんです。その時、彼はシャネルのタイアップの仕事で、モデル10人を連れてパリ郊外で撮影していたんですけど、急にギイは、スタイリストの彼女に『子どもを10人と、その子らに合うシャネルの服を用意してくれ』と言ったそうです。で、シャネルに電話したら、今日は無理だけど、明日には用意できますということで、どうにか撮影できたと。まあ、ヴォーグとギイ・ブルタンだから可能だった撮影ということですけど、これAIならできちゃうんですよ」

 五味さんは、さらに続ける。

「でも、ギイ・ブルタンでも、入れ墨の妊婦100人の写真は撮れない。それで、ぼくは、そういうシリーズで作品を作ってみました。そういうことができるのは、やっぱりAIの面白さです。ただ、これが単に非現実的な写真を作るというのでは面白くない。現実的だけど、写真作品にするとなると、ほとんど不可能みたいな線が面白いんです」

被写体になる人が集まらない

 それは、とても写真家的な考え方だと思う。虚構のリアリティを、まるでそこにあるかのように描くスーパー・リアリズムが、とても絵を描く人の発想であるように、現実のリアリティーを虚構の中にも見出したいというのは“被写体”を必要とする写真家の眼だろう。そうして、五味さんはAIによるYellowsに向かうのだけど、それにも現実的な理由があった。

「今はもう、被写体になってくれる人を集めるのが難しいんです。今は、ネットがあるから、それこそヌード写真のモデルになった場合、それがどう拡散されるか分からない恐怖があるんです。一方で、ヌードを商売にしている人はもっと難しくて、今は撮影してから3カ月の期間にでき上がったものを見て、それを発表するかどうかを決める権利を、撮られたモデルや女優が持ってるんです。だから、一生懸命に撮影しても、最終的に出せないなんてことにもなってしまう。でも、生成AIなら、その問題もないし、同じような、でも一人一人違う、その差違と同一性を見せるポートレートという意味では、バリエーションを沢山作れるAIの方が向いているんです」

 そして今は、例えば「Promptchan AI」のような、女性の姿を生成することに特化したAIもある。

五味さんが作業中の「Promptchan AI」のスクリーンショット。体形などを細かく設定して、自在に人体を生成できる

「『Promptchan AI』には、随分、助けられています。顔を決めたら、あとは、体形を細かく指示します。そうやって、まずモデルを作るんですね。次の日には、昨日作ったものとは違う感じの体形にしよう、という感じで、どんどんバリエーションを作っていきます。ただ、モデルはできても、Yellows的な、真正面を向いた写真は、なかなか作ってくれないんですよ。その方法を色々考えて、今は、Chat GPTと相談しながらプロンプトを作っています。それで、真正面を向かせられるようになりました」

 そうして作られる五味さんの「Yellows AI」や、その他の生成AI作品は、以前のカメラで撮影していた五味作品の流れの上にあることが、はっきり分かる。つまり、写真家の表現になっている。または、作家性を感じることができる。

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