アニメビジネスは短い周期で変化にさらされ、常に対応を迫られてきた。
例えば2005年のピーク時には全体で3700億円ほどの規模があったDVD市場が、わずか4年後の2009年には約4割減少し、アニメ関連企業も多くが苦境に陥っている。2007年にYouTubeが日本でのサービスを開始したのを皮切りに、アニメの視聴スタイルが配信に移行したのが主な要因だが、当初、視聴されていたのは無許諾で投稿されたいわゆる海賊版が中心だった。
これが2015年にNetflix、Amazon Prime Videoが日本上陸を果たすと、ほとんどのテレビアニメが公式に配信サービスで視聴可能になっていく。都度課金ではなくサブスクリプション(定額)モデルを武器に世界規模でユーザーを増やしていた外資大手が、カタログが充実しており、かつ毎クール大量に(年間200〜300タイトル)新作が生まれる日本のアニメの調達に積極的に取り組んだからだ。
もちろん国内でテレビ放送されることには引き続き価値はある。Netflixがアニメのオリジナルタイトルを積極的に、しかも直接に、有力スタジオから調達をはじめた際には「テレビ放送や製作委員会方式に取って代わるのではないか」と見る向きもあったがそうはなっていない。特別な契約がなくても無料で視聴が可能な毎週のテレビ放送、そして1週間のインターバルの間にSNSでの話題と注目を喚起し、ほぼサイマル(同時)に海外配信されるというテレビ放送を起点としたルーティンはアニメビジネスの成功モデルとして現在も盤石なものだ。
ただし、広告代理店に目を移すと事情は変わってくる。そもそも深夜帯の放送枠のアニメの多くは、放送枠を確保している広告代理店が中心となってスポンサーを獲得し企画・製作を進めるという「スポンサーモデル」を採用していない。視聴率が低く、スポンサー企業が集めにくいこの時間帯の放送枠をアニメ関連企業が組成する製作委員会が購入し、30分間の間に流すCMも含めて番組コンテンツを納品するという形を取ることがほとんどで、広告代理店がそこに加わる必然性は薄い。
ADKに長年利益をもたらしてきた「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」といった作品は、ゴールデンタイム帯、学校から帰ってきた子どもたちと親が夕食を取りながら視聴する=比較的視聴率が高い放送枠での展開を前提に、スポンサーモデルの優等生として存在感を放っていた。ADKグループであるエイケン社が制作する「サザエさん」は1997年まで週二回、「ドラえもん」は2019年まで金曜日のゴールデンタイムに放送されていたことからも、広告代理店にとってもドル箱であったことが分かる。
しかし少子高齢化と、配信サービスの台頭によって、子ども向けテレビアニメの国内での黄金時代は終わりを迎えた。もちろんアジア圏ではかつての日本のベビーブームのような状態にある国も幾つかあるが、国や地域毎にビジネスドメインが区分されている放送やそこに付随する広告ビジネスにおいて、国内の広告代理店が直接参入することは難しい。電通、博報堂、ADKといった広告代理店大手は、この分野での事業の在り方の転換を模索してきたというのがここ10年ほどの動きだった。
テレビアニメに強い関わりを持つ広告代理店の在り方が転換したことを象徴する出来事が、2019年のバンダイナムコホールディングス(BNH)による老舗広告代理店「創通」の買収だ。
1979年放送の「機動戦士ガンダム」の企画・製作に携わり、放送後もシリーズ作も含め版権管理、特にガンプラの権利をサンライズと保有していた創通は、その資本をもとに深夜アニメも含めたアニメビジネスにも積極的に参加してきたが、ついに巨大なIPホルダーであるBNHによって買収されたことに時代の潮目が変わったことを感じた関係者は多い。
なおガンダム関連の著作権の機動的な運用を目指すBNHは、2022年には子会社サンライズもバンダイナムコフィルムワークスとして別の子会社と統合した。機動戦士ガンダムGQuuuuuuXのようないわゆるファーストガンダムのさまざまな要素=版権がかなり自由に引用される作品展開が可能になったのもこれらの動きあってこそともいえる。
ADKももちろん環境の変化への対応を試みてきた。子ども向けアニメだけでなく、深夜帯の作品製作に関わるべく2016年にはアニメ制作会社ゴンゾを約62億円で買収している。
ただ「青の6号」「戦闘妖精雪風」などCGアニメ黎明期の名作を擁するゴンゾだが、2009年のマザーズ市場からの上場廃止の前後に、制作ラインのほとんどを手放しており(ADK傘下のスタジオKAIはその係累の1つにあたる)、新作を制作する能力は保持しておらずADKのもくろみは結果から見れば外れてしまった。
この他にも傘下のエイケンは2013年まで「サザエさん」をセル・フィルムで制作を続けていた老舗であり、「遊☆戯☆王デュエルモンスターズ」など人気作を擁する日本アドシステムズ(NAS)も、海外配信大手から求められるようなカッティングエッジな作品を作ることは得意としていない。ベインキャピタルによって得られた資本をアニメ事業の転換に充てたくても、なかなかそのためのカードが揃わないという時期が続いていた。
ADKは2019年には本業の広告売上高でインターネット広告大手サイバーエージェントに逆転されている。虎の子のアニメ事業の展望が描ききれないなか、本業の今後の成長の可能性もなかなか見えない、という状況で、今回のKRAFTONによる買収を迎えたということになる。
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